不思議なお面にご用心？｜リアクション

不思議なお面にご用心？

「……あ、イエロー！」
　声のする方を向くと、同年代の少年と目が合う。その目はロミーと同じ青だった。目が合うと思っていなかったらしく、少年は少しうろたえる。
「どうかした？」
　その後ろから出てきた少年も青い瞳の持ち主だ。
「いや、ちょっと」
　少年はロミーに近づくと、小さな声でそっと耳打ちする。
「それ、にやついたおっさんのお面屋で買ったろ？　……イエローの真似しとけよ。じゃないと」
「アイス溶けるよ？」
「……今行く！」
　絶対だぞ、と念を押し、少年はそそくさと行ってしまった。
　ロミーは首をかしげながら、そっとお面を撫でる。
　イエローの決め台詞は、今でもしっかりと覚えていた。
（あのこ……なんであんなこといったの？　わかんないけど、やってみる）
「……カレーだいすき、イエロー、さんじょう」
　手をぴんとのばし、ポーズを決めたロミーは、最後に「やあ」とその手を180℃回した。
　その瞬間、ポージングが完璧に決まったロミーの手から、食べかけの綿菓子が弧を描いて飛んでゆく。
　さながらオリンピックのスロー判定映像のように綿菓子が飛んでゆくのをみながら、ロミーはふるふると震えた。
「わたがし……飛んでっちゃった……」

「綿菓子が飛んできたのは後ろから。つまり、妖怪はこの屋台の後ろにいるんだ……。　絶対そうだ！」
　ヌメリひょんのお面を顔の脇にずらし、勢いよく表へ駆けだした朱深。
　しかし境内で見たのは、イエローのお面をかむったまま震えているロミーの姿だった。
「……イエローが、妖怪『綿菓子落とし』？」
　その声にロミーがお面を外す。朱深はイエローの下から少女が出てきたことに少しだけ驚いたが、それよりも気になることがあった。
「ねえ、綿菓子の技、どうやんのか教えてよ！　きみって妖怪の弟子なんだろ？」
「ようかい？」
　ロミーは朱深の云っていることが分からないまま、とりあえずもう一度イエローのポーズをやってみる。
「手を、こうやる。で、やあー」
「やあー！　おお、なるほど！」
「……そっちは？」
　ロミーが朱深のお面を指差すと、朱深は待っていましたとばかりにお面をつけ、胸を張った。
「これは伝説の妖怪、ヌメリひょんのお面！　ヌメヌメ～、こうやって、色んなものをヌメらすんだ。　風呂場の桶とか、シンクとか、時にはオトナの人間関係とかな」
「ヌメリひょん、すごい」
　朱深のヌメヌメした動きに、やっとロミーの顔にも笑顔が戻った。
「ヌメリひょん、ボク……迷子になった……」
「ヌメヌメ～、よし、僕が手伝ってあげよう～放送所で迷子の呼び出しだ～」
　でも！　とつけ足し、朱深は急にお面を外す。
「人間の時は朱深っていう名前なんだから、覚えるんだぞ！」
「あかみ。ボクは、ロミー。……あかみ、わたがし、ほしい」
「さすが妖怪綿菓子落としの弟子だな！　じゃあ先にそっち行こうぜ」
「……ちがう……」
　いまいち噛みあわない会話のまま、ふたりは一緒に綿菓子屋へ向かった。
　綿菓子とお面を手にしたご満悦のロミーが、朱深に連れられ両親と再会するのは、もう少し先の話である。

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