寝子島に台風がやってきた｜リアクション

寝子島に台風がやってきた

　そして夜。
　寝子島は停電に見舞われた。
「こんなこともあろうかと、水色と紫に淡く発光するLEDランプを用意した。色付キャンドルもあるよ。非常電源は公共施設が中心だからね」
　魔女の用意周到ぶりに、参加者は舌を巻いてしまう。
　桜庭も防災リュックから非常灯をオン。
　部屋の中はだいぶ明るくなった。
「……夕食になっちまったか。まぁいい。みんなで食おう」
　月居が停電にめげずに豚バラともやしの炒め物やサラダを食卓へ並べる。
　李が持ってきた米も炊き上がった。
「俺も手伝ったぜ！　味は月居が見てくれたから安心しろ！」
　吉祥寺も月居とともに調理を手伝っていたのだ。
「ごめんな、アリーセ、小麗！　相手してやれなくて。でも今日は一晩中、一緒にいられるぜ！　着替えは下着含めて俺が買ってあるから自由に使ってくれよな！　ただし、男子の分はねぇぜ？」
　吉祥寺の事前準備のおかげで、泊まる予定のなかった黒依と李も一泊することに。
「菜々緒、どうだ……？」
　自分の作った料理の感想を求める月居。
「……うん、すごく美味しいわ」
　素直な感想がとても心地いい、と彼は思った。
　――今度、料理教えてやろうか？
　そんな言葉が喉から出そうになって、慌てて月居は飲み込んだ。
（言える訳ねぇだろが……）
　自嘲してしまう彼だが、もりもりと料理に箸を付ける菜々緒の姿に安堵していた。
「まぁ……。楽しそうな菜々緒の姿を見るのは、嫌いじゃない」
　月居も豚肉を頬張り、その出来栄えに納得したのだった。
　その後、結局、【魔女の座】で一夜を明かすことになったお茶会メンバーたち。
「完全に想定外だが、これはこれで面白い結果になった」
　旅鴉はメイドに簡易ベッドを作らせて、女子たちをそこに寝かした。
「男子はすまないが、廊下で寝てね。残念だが毛布が足りない」
　詫びる旅鴉に、霧生は苦笑い。
「ちょっと濡れるけど、俺んち来るか？　男は男同士、積もる話でもしようぜ！」
　こうして、霧生宅へ上がり込んだ野郎どもの夜も更けていく……。

　丑三つ時。
　風も雨も小康状態になった頃。
　御剣は菜々緒をこっそり呼び出した。
　２人は弘明寺から教えてもらった“夜に寮を抜け出してもバレない裏道”を使い、寮の近くのコンビニにいる。
「確認したいことがある」
　帰り道、御剣は思い詰めた様子で菜々緒を見詰める。
　菜々緒はただ、それを黙って聞いていた。
「女王の事を死んだ七男や菜々緒の代わりと考える自分に嫌気が差してさ。それは二人の死を、女王の事を侮辱している気がするんだ。守れなかったという罪の意識が俺を苛む……」
　御剣はこめかみを抑える。
　今も激しい痛みが頭を巡っている。
「女王は自分の事をどんな風に考えている？　今の俺達との関係をどう感じている？　俺は彼女を二人の代わりや延長としての菜々緒ではなく、独立した個人として女王と呼びたい」
　それは、御剣自身の決意の現れだった。
　彼の中で、まだセブン事件は終わっていなかったのだ。
「でも、君自身はどちらで呼ばれたいんだ？　『菜々緒』か？　それとも『女王』か？　……教えてくれないか？」
　菜々緒は少しだけ目を伏せた。
「２つの人格は確かに消えたわ。でも、所詮、女王（わたくし）は２人の残骸をかき集めた存在。いつ綻んでもおかしくないの」
「それってつまり……」
　御剣は息を飲んだ。
　菜々緒はスカートをつまむと、軽く一礼した。
「だから、刀君の質問はナンセンス。どうぞ、お好きなように呼んでくださいまし、私の命の恩人様」
「分かった……。君が何を考えているのか、聞けて良かった」
　御剣は頭を抱えたまま、フラフラと霧生邸へ戻っていった……。

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