歌え！　笑え！　シング・ア・サンドー｜リアクション

歌え！　笑え！　シング・ア・サンドー

　燕三条輝夜は高鳴る胸を必死に抑えていた。
（憧れてるだけじゃなく、小さい頃に笑顔をもらったアイドルみたいに、今度はあたしがみんなを笑顔にさせてあげるの！）
「さあ、今度も可愛い女の子が登場します。男性陣歓喜ですね。燕三条輝夜さん、どうぞ！」
　小走りで舞台の中央まで進み、輝夜は口角を上げる。
「はじめまして、こんにちは！　燕三条輝夜です」
「眼鏡っこ……いいですね」
「ん？」
「いや、何でもないです」
　微動だにしない無表情でそう云われてしまっては輝夜も追及できない。ごほん、と咳ばらいをした司会者を怪訝な顔でみながら、曲紹介に移った。
「ところで、燕三……燕さんって呼んでもいいですか？」
　急な質問に驚きながらも、つい頷いてしまった。
「あ、どぞ」
「どうも。で、燕さんの選んだ曲はどんな曲でしょう」
「選曲は…あたしが小学生の頃に聞いてた、アイドルの曲です。+rhythm（プリズム）って、知ってる人いますか？　今でもテレビで見る、現役の４人組女性ユニットなんですけど」
　観客席に問いかけてみると、ちらほら「知ってるー」という反応が返ってくる。
「ではでは、その曲を歌って頂きましょう、燕三条輝夜さんで『明日という名のステージへ』」
　司会のアナウンスが終わり、曲が流れ始める。
（明るく楽しく！　あたしのハートを届けよう）
「燕三条輝夜、歌わせて頂きます！」
　その掛け声と共に、輝夜は大きく息を吸った。

　
♪
　まっすぐになんて歩けない　寄り道しながら明日へ向かうの
　それがとびきり楽しい！
　昨日はじめて聞いた歌　口ずさみながら軽くステップ

　いつの間にか覚えた歌　歌いながら鮮やかなターン
　トキメキやキラメキが　胸のうちで弾んでる！

　飛び込んで！　最高のステージへ！
　輪になって！　熱狂のグルーヴで！
　退屈なんて言葉に程遠い　愉快で素敵な日々

　飛び出して！　軽やかなフレーズで！
　いつだって！　鮮やかなステップで！
　退屈なんて言葉に程遠い　綺麗でまばゆい世界

　飛び込んで！　大好きなステージへ！

　思いっきりジャンプをし、フィニッシュを迎える。サビではリズムに合わせて旗をふってくれた人もいた。
（なんだかほんとのアイドルみたい……！　気持ち、伝わったかな）
　多幸感に包まれながら礼をした輝夜は、司会者の一言で現実に戻される。
「パワフルな歌をありがとうございました。それにしてもあれだけ動いて眼鏡外れないってすごいですね」
「……司会者さんはどんだけ眼鏡すきなんですか」
「まあ、それはそれとして、です。さあ、輝夜さんの評価はどうでしょう。みてみましょうか。皆さん旗をあげてください！」

　審査員メンツの中でも託志は早い。さっと白をあげる。なぎさは黄色、綾花は白だ。
「兄ちゃん、遅いな」
　託志が膝の上に置かれたままの旗をみやる。
「いや、ブルーに選ばせようと思って」
「猫ちゃんに歌の審査を？」
　綾花も興味深々でブルーをみつめる。
「さっきからみてると、楽しいとしっぽ揺らすみたいで」
「あらほんと、ゆらゆらしてるわ」
「追記しておかないとですね」
　綾花は新しい情報をメモしなおした。修はブルーがじゃれついた黄色の旗をあげる。

「お、五分五分か？　……いや、黄色が多いようです。では燕さんにも宴会セットをご進呈ですね」
「こっちかあ。じゃあこれ、予備の眼鏡にしようかな」
「後生だからそれだけは！」
　会場は笑っているが、司会者だけが真面目な顔で止めに入る。
　輝夜もそれには呆れを通り越し、笑ってしまった。
「楽しかったです、ありがとうございましたーっ！」
　収拾のつかない司会者の代わりに挨拶でしめてはけると、輝夜は足を速めた。自分の番が終わったら声をかけようと輝夜は決めていたのだ。
（二番目に歌った、ピンクの衣装の女の子。絶対絶対、同士とみた！）
　まだ辺りに残っていることを祈りつつ、輝夜は袖から回り、外へ向かった。