歌え！　笑え！　シング・ア・サンドー｜リアクション

歌え！　笑え！　シング・ア・サンドー

（わ、笑えって云われたけど、緊張しちゃって……）
　宇井真珠は衣装のフリルを掴んだ。ピンクとネイビーブルーでまとめた、アイドル色全開のかわいらしい手製衣装だ。
（でも、弱気になっちゃダメ、ここまで来たんだから進まないと！　今は宇井真珠じゃない、アイドルが人前で怯えてどうするんですか！）
「お次は……匿名希望さん？　気になりますね。それではどうぞー」
　意を決してステージに出ると、すぐさま司会者から名前を突っ込まれた。
「こ、こんにちは！　歌うことが好きな匿名で……」
「名前、教えてくれません？」
「え、名前言わなきゃダメですか！？」
「可愛い女の子の名前が知りたいのは司会者の性です」
　会場からも「知りたい！」という声がいくつも飛び、真珠はぱっと思いついたステージ名を叫んだ。
「えっと、萌木ぱるるです！　今日はアニメ『ふたりはネコキュア』の主題歌を歌いたいと思います！」
「それでは歌っていただきましょう、萌木ぱるるさんで『Touzen! ふたりはネコキュア』です」

　♪
　　ネコキュア！　ネコキュア！
　　ネコちゃんでキュアキュア　ふたりは！　ネコッキュア♪
　　いちニャン去ってまたいちニャン　ぶっちゃけありえない　
　　またたびなくてもふたりは　めちゃくちゃタフだし！
　　ピンチを乗り越え手に入れたのは　信じあえる力
　　どんなことも怖くないのよ！　ふたりならば最強！
　　笑う門にネコきたるでしょ？　肉球パンチでぶっ飛ぶ！？
　　ねこじゃらしを揺らして思いっきり　もっとニャンニャン！

「懐かしいな」
　ねこを膝でじゃらしながら修が呟く。
「かわいい声！　ほんとのアイドルみたいね」
　手拍子を打ちながらなぎさも楽しそうだ。
　綾花もかけ声をはさみながら、しげしげとステージの真珠をみている。
「あの衣装すごいですね。お手製でしょうか」
（……誰も突っ込んでないが、あの兄ちゃんはこの曲を知ってるのか？）
　託志だけが首を傾げながら、ステージを見上げていた。

　曲が終わり、割れんばかりの拍手に包まれ、真珠は火照った顔でぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました！」
「いやあ、声も衣装もかわいらしい。そんな萌木さんの評価はどうでしょう、皆さん一斉に旗をあげて下さい、どうぞ！」
　なぎさと綾花は黄色を、修は迷いながらも、ブルーが飛びついた黄色い旗をあげた。
　託志も黄色をあげようして考え、結果白をあげる。
「お、これはやや黄色が優勢かな。では萌木さんにはハゲカツラと鼻メガネを進呈致します。でもこれ、アイドルとしてどうなんでしょう」
「あ、そうですね……」
　ふたつのアイテムを受け取りながら、真珠は小さくため息をついた。
　確かに、アイドルには無用の二物だ。その時、
「僕と交換シマショウ！」
　舞台の端から佐助の声がして、会場がどっと沸く。
「じゃあ、袖に戻ったら、アレハンドロさんと交換したいと思います！　ありがとうございました！」
　もう一度礼をし舞台袖にはけると、待ち構えたように佐助が立っていた。
「はい、どうぞ」
　持ち物を手渡すと、佐助はキラキラ目を輝かせた。
「ぱるるサン、アリガトゴザイマス！」
「えっと……ごめんね、道開けてもらっていいかな？　次出番なんだ」
　申し訳なさそうに肩を叩かれ、ふたりは慌てて道を開ける。
「すみません！」
「いや、いいのいいの。ふたりともお疲れ様。どっちもすごくいいステージだったよ！」
　屈託のない笑顔を向け、小柄な長い黒髪の少女はステージへ歩いていった。