灯篭流しの夜は更けて｜リアクション

灯篭流しの夜は更けて

「あれ、みゆきさん？」
　桃色の地に黄色い菊をあしらった浴衣で着飾ってきた北原みゆきは、思わぬ人に話しかけられて驚いた。
「時子ちゃん！どうしてここに？」
　高校で同じクラスの、御巫時子だった。
「今日は、ボランティアのスタッフをしてるんですよ」
「そうだったの……」
「さっきは迷子の子を案内してきましたよ。あとは灯篭のつくり方をみんなに教えたり……あれ、それはもしかして、手作りの灯篭ですか？」
　時子は、みゆきの抱えている「本来灯篭になるべきだったもの」を指さした。
「うん……いろいろあって、こうなっちゃったけど」
　全長50センチはあるであろう、金色に彩られた渡し舟の模型。昨晩、寝落ちするたびに夢にできたご先祖様の注文を聞いた結果だった。
「人形も付いてるじゃないですか！これは……もしかしてみゆきさんですか？」
　みゆきは強く首を振った。船首に立っているのは、白装束を着たご先祖様人形。自分が白装束を着ているみたいで嫌だったのだが……。
「それは、私の夢に出てきたご先祖様よ。このとおり私そっくり。この灯篭、ちょっと派手すぎて恥ずかしいから、人が減る頃に流そうかな、って思って」
「そんなことないですよ、凝ってて素敵ですよ。あ、ちゃんとロウソクを置く部分はあるんですね。火、持ってきます」
「灯篭」に火を入れると、二人は連れ立って川辺に向かった。
「みゆきさんは、寝子島の灯篭流しにまつわる風習はご存知ですか？」
「必ず知らない人と話すように、っていうあれ？」
「そうそう。なんでも昔、なかなか帰りたがらないご先祖様がいたからこの風習が出来たんですって」
　みゆきは、ご先祖様の顔―――自分と同じだが―――を思い出す。
「そ、そんな困ったご先祖様、ほ、本当にいたのかな？あは、あはは……」
「私が以前夢で会ったご先祖様は、素敵な女性でしたよ。旦那様への愛情がもう、ひしひしと伝わってきて」
「へえ……。私の母方のご先祖様は、女性だけど庭師だったんだって」
　みゆきと時子が話をしながら歩いていると、近くにいた少女がゴージャスすぎる灯篭に反応する。
「失礼……君、すごいデザインのセンスをしているね」
「う～ん、私のセンスといっていいかは分からないけど……もしかしてあなたも寝子高の生徒さん？」
「うん。服のデザインが好きだから、造形には全般に興味があるんだ」
「私は北原みゆき、よろしくね」
「御巫時子です。また学校でもお会いできるでしょうね」
「桜月だ。普段はこんなことはしないが、寝子島の風習さまさまだな」
　三人は語らっているうち、やがて川べりに着いた。
　みゆきは船型の灯篭を浮かべながら、ご先祖様に語りかける。
　まだ帰りたくないなんて言わないでくださいよ、来年もあるんですから。ご先祖様の食べたがってたRatonのお菓子もお供えしますよ。
　……本当は、双子のお姉さんができたみたいで嬉しかったんです。短い間でしたけど、楽しかったですよ。また来年も、会いに来てくださいね。

「ほら、見てください！満天の星ですよ」
「これは……見事だな」
　後ろから聞こえてきた声に、みゆきも空を見上げた。夜空一面に、星が瞬いている。
「星空と灯篭の光。幻想的な風景ですね。川も空も、キラキラ輝いてます」
「さて。今日見た光景を忘れないうちにデザインに活かしたいから、星ヶ丘寮にもどることにする。失礼するよ」
　月が足早に去ると、時子も、
「最後には下流で灯篭を回収しないといけないんです。いつまでも綺麗な風景にみとれてるわけにはいかないので……失礼します」
　二人を見送ったみゆきは、川辺にしゃがんだ。流れる灯篭の数も減ってきた。そろそろ、灯篭流しもお開きかな。

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