遠い夏の日が｜リアクション

遠い夏の日が

　――６時間眼

　夏休み前最後の授業は、担当教師の事情で自習となった。みんなプリントに向かい、問題を解いている。
（……暇だな。寝ちまいそうだぜ……）
　机につっぷしながら文貴はため息を吐いた。時間帯的に眠くなりやすいのか、うつらうつらしている者も少なくは無い。そんな様子に彼は暇つぶしでも、と思い後ろの席にいる託志の肩を叩いた。
「んー？　どうした、フミッキー」
「なぁ、テンチョー。お前、付き合ってる奴いるか？　で、どこまでいった？」
「はぁっ？！　ちょ、いきなり何言ってんだよ？」
　思わぬ問いかけに慌てる託志。その様子にきしし、と笑う文貴はにやにやと託志の頬を突っついた。
「ほぅ？　まさかまだど」
「だーっ！　うるせぇっ！　まだ何にもねぇよ！！」
　遮る様に畳み掛ける託志がお前のほうはどうなんだよ、と問いかければのらりくらりと余裕の笑みで躱す文貴。妙な空気になりつつも眼鏡コンビの雑談は続く。
「じゃあさ。好みのタイプってどんな感じだ？　このクラスで言えば誰とかあるか？」
「好みのタイプねぇ……。このクラスの女子ってさ。何気に皆レベル高けぇんだよなー、ホント」
　文貴がクラスを見つつ問いかければ、託志は眼鏡を正して真剣に考える。そこで眼に留まったのは、ふんわりとした笑顔が素敵な白沢絢子だった。彼女は近くの席の友達と相談しながら問題を解いていた。
「まぁ、実の所絢子は結構気になってたりはするんだよなぁ。可愛いしスタイルいいし、優しいし……」
「なるほどなぁ」
　２人で彼女を見つつ、今度はお前の番だと言わんばかりに託志が文貴に眼を向ける。彼は少し考えつつ……白衣を着て居眠りしている皐月に眼がいった。
「俺は、秘密なんだが、皐月だな……。胸がないのが玉に瑕だが、あーゆー強気な女ほどオトし甲斐があるってもんだぜ」
　眼鏡を正しつつ言う文貴に託志は「ほほう」と意味深に笑う。
　そんなこんなで盛り上がる２人だったが、話の流れから互いに持っていた『ある物』を見せ合うことになった。

　居眠りをしていた皐月はふと、眼を覚ました。欠伸を１つすると眼をこすり、文貴たちの方を見た。なんか呼ばれたような気がしたが、気のせいか？　と首をかしげる。
（まぁ、退屈しのぎになるかな？）
　もう１つ欠伸をし、席を立つ。と、文貴と託志の方へと歩いていく。なにやら出そうとしている様だが気にしない。
「よく寝たわぁ……っと、何、話てんだ？」
「「…………えっ？！」」
　皐月が声をかけた途端、動きを止める文貴と託志。皐月は気づいていなかったが、２人は今まさに鞄からエロい本を出そうとしていたのだ。凍りつく２人の様子に、皐月は不思議そうなまなざしを向けるのだった。
　そして、その後ろ。いつの間にか監督に来た教師が皐月に席へ戻るよう言い、文貴と託志ににっこり笑った。そして「それは何だ」と問いかける。
　結局没収され、説教を食らう２人なのであった。