遠い夏の日が｜リアクション

遠い夏の日が

「どれも美味しそう……」
　彼女はそういいながら持ってきたお弁当を開く。と、入ってきたのはこれまたつやつやしていて美味しそうな手羽元の煮っ転がしである。思わず恥ずかしい気持ちがしたのだが、露草は瞳を輝かせる。
「いい匂いデース。きっとデリシャスでしょう！　ね、白石さん？」
「ええ、とっても美味しそう♪」
　露草に話題をふられ、白石妙子も微笑んで答える。彼女もゆっくりとお弁当を開け……、少し驚いた。母親の作ったおかずをお弁当に詰めてきたと思っていたのだが、そこにつめられていたのは自分が作った物だった。
（えっ？　どうして……？）
　色合いが少し足りない気がする。それを食べながらぼんやり思ったのは、自分の母親が作ったおかずの数々。
（お母さんが作ってくれたお弁当のほうが、彩りとか綺麗だったわね）
　でも、その味は確かに美味しく、優しく味がした。おかずを交換すれば、「おいしい」と皆に言われ、嬉しくなる。
「しかし、今日は気持ちいいな。良い風が吹いているし」
　マキナがそういえば、傍らの柳霞も、皆も頷く。因みにマキナのお弁当は果物やお菓子がメインである。それを見た絢子がくすっ、と笑って瞳を細める。
「あら、甘い物がたっぷりね？」
「授業の後は糖分も摂らないと、ね？　ほら、後半戦も残っているし」
　甘党のマキナはそんな事をいうも、他のメンバーはそれが彼女らしいと思ってしまう。柳霞は何を思ったのかおかずの１つを取り出した。
「さっきのお礼。蒲鉾に梅肉を挟んでみたの♪　はい、あーん♪」
　とマキナの口に運んであげる柳霞。マキナはどんな味かな、と口にするが……舌に広がったのは和菓子独特の優しい甘さだった。
「もしかして、これ、お菓子？」
　見ていたモニカがそう問いかければ柳霞は「はいっ♪」と笑顔で頷く。
「練り切りで作ってみました♪」
　そういいながらも、マキナに甘い物ばかり食べていたら身体が持たない、といいつつ今度はから揚げを口に入れてあげるのだった。
　最初はここにいるメンバーが同じクラスだったか不思議に思いつつも、彼女は「ま、いっか♪」と楽しんでいるようだった。
（不思議な気分ね……）
　モニカも穏やかな気持ちで食事を取りつつ、少し寂しさを憶える。あさってからは夏休みで、当分皆に会えない。なぜかどこか懐かしさを憶えつつも、モニカは食事を続けるのだった。
　食事の終わりには、露草が用意したデザートがあり、皆で食べた。彼のお手製りんごのウサギさんとキウイのウサギさんは好評だった。

　食事を終え、妙子は用事があるという絢子と共におしゃべりしつつ文芸部の部室へ向かおうとしていた。その途中で購買を通りかかる。何気なく眼に入ったパンに、妙子は懐かしさを覚える。
（そういえば、……固まったチョコが入ってるビスケットパン、羨ましかったっけ）
　パンも美味しそうだな、と思いながら通り過ぎ、途中で絢子と別れる。文芸部の部室へと向かいつつもその道のりが妙に遠い事に彼女は疑問に思いつつもそこを目指すのであった。