遠い夏の日が｜リアクション

遠い夏の日が

（うわっ、また踏まれ……！？　これじゃあ、買ったパンが潰されそう……）
　檜山立樹がもみくちゃになりながらカウンターの元を目指す。急いで来たもののこけたり、ぶつかったりでタイムロス。
（もうちょっと……！　よし、揚げパン残ってる！！　あとクリームパンにしようっ）
　手早くそれらを手にするとすかさずレジへ。そして戻ろうとしたが……、足が攣ってしまったりクリームパンがちょっと潰れて袋の中にクリームがべちゃりと毀れてしまったり。それでも揚げパンをゲットできたのは嬉しかったりする。
　よろよろと人の群れから出、疲れからがっくりとうな垂れていると、先に来ていたであろう巧が不思議そうにしていた。
「なんや、欲しいもんなかったんか？」
「いえ、そういうわけでは……」
　そう言って苦笑しつつちょっと潰れたクリームパンを見せれば、巧は事情を理解する。
「ま、昼飯時は戦争やしな。しゃあないわ」
「そうだね。いやぁ、参ったよ」
　後から来た徹も苦笑しながら現れる。すると立樹は
「けれど、円城さん……何気に女の子にパンを譲ってましたよね？」
　誰もがパンなどを求めて殺到する中、スマートにそんな事が出来る徹。凄いな、と巧と一緒に感心していると徹はきょとん、とする。
「普通のことだよ」
「いや、中々できへんで……」
　やさしいんやな、と巧が呟けば徹は照れたように笑う。
　その流れで３人は教室で一緒に食事を取る事にした。教室に戻りつつ、立樹はぼんやりと思う。
「この間は移動教室の波に飲まれそうになってパンが買えなかったし、今日は今日で足が攣ったりするし……俺には不憫の神様でも憑いてるのかなぁ？」
　小さな声で呟く彼に、徹と巧は大丈夫だよ、と励ますのだった。

　そんな様子を眺めつつ、アーサー・Ｔ・シートンは猫達をおもちゃであやしていた。彼がおもちゃを動かせば、猫達はわらわらと集まってくる。
（これはどうでしょう？）
　とふりふり、ふりふり。すると猫達は興味を引かれ追いかけていく。まるで猫を釣っているような様子に、ギャラリーは楽しそうに見ている。
（これはこれで、楽しいですねぇ）
　愛らしい猫の声に瞳を細めながら、アーサーはこのひと時を楽しむのであった。

　教室の窓辺では鳳翔皐月がのんびりと食事をしていた。コンビニで購入したおにぎり２つとパックの牛乳というシンプルな物である。ちらり、と教室を見れば巧と立樹、徹の３人が楽しげに談笑しながら食事を取っている。
（平和だなぁ）
　どこかで猫が鳴いているな、とぼんやり思いつつ食事を取り終えると、今度はスケッチブックを取り出し、クロッキーを始めた。窓の外にいた猫や植物を描いていくうちに、皐月の表情が僅かに曇る。
（人物を描くのは苦手だなぁ。……練習しねえと、マジで不味いぜ、これは）
　そんな事を考えていると購買から文貴達が教室に戻ってきた。皐月は文貴の姿を見つけるとクロッキーのモデルになってもらえないか交渉する事にした。

　屋上では、多くの生徒たちが食事を取っていた。涼しい風が吹くこの場所は、今日も人気らしい。
　陰になっている所では１組のクラスメイト数名が輪になって食事を取っていた。
「ちょっと気合、入れてミマーシタ！」
「わぁ♪」
　深縹露草が中くらいの三段重を取り出せば、絢子が愛らしい笑みを浮かべる。その傍らでは神野マキナと紅林柳霞も目を輝かせていた。俵おにぎり（中身はツナマヨとおかか、昆布が２つずつ）に豆腐ハンバーグ、たこさんウィンナー、もやし炒めに野菜たっぷりサラダ……と栄養バランスも考えられたそれに英モニカが思わずぽつり。