遠い夏の日が｜リアクション

遠い夏の日が

破：はじける事も、楽しむ事も青春だ！

　――昼休み

「柘榴！　勝負するネ！」
　毒島イヴはびしっ！　と毒島柘榴にそう提案した。
「勝負て、何をだ？」
「焼きそばパン競争ね。あの子から聞いたノ。学校ではこれは外せないって」
　その言葉に合点がいった柘榴。ちなみに『あの子』とは二人の娘の事である（ちなみに、この夫婦はどちらも普段の意識を持っている）。
　柘榴はにぃ、ととても楽しげな笑みを浮かべた。
「競争っておめぇ、競争で俺に勝てると思ってるのか？」
　イヴはその言葉に瞳を輝かせる。そして、「それじゃ、競争ナ！」と駆け出せば柘榴も後を追う。その内に打撃音とか徒手空拳的な音が聞こえてくるのは……何故だろうか？
　そんな姿に「お前が一番風紀を乱しているんじゃないか？」と問われる柘榴なのであった。

（さて……）
　円城徹は財布をポケットに入れると教室を後にし、早歩き。お弁当を持ってこなかった彼は購買で何か買おうと考えたのである。走らないのは女の子にぶつからない為である。……が、その真横を躍動的に通り過ぎる影。同じクラスのイヴである。その後を追うのは風紀委員の柘榴。二人は競い合うように廊下を進み、遠くで打撃音が聞こえる。
そんな様子に徹は「……けっこうとばすねぇ」と苦笑する。

「ようやく昼かぁ」
　伸びをしながら呟くのは典町託志。彼は友達を誘おうとその姿を探す。と、神無月文貴がめがねを正しながらやってきた。
「腹へったよな。うっし、購買行くか！」
「ん？　フミッキーも？　奇遇だな。一緒に行こうぜ！」
　託志がそういえば、文貴も「おう」と笑顔で頷く。そして「ぼさっとしてるとなくなっちまうぞ！」と文貴は託志と共に軽やかに駆けて行き、そんな姿に思わず、徹が声をかける。
「廊下を走るのはスマートじゃないよ」
「焼きそばパンは人気だろ？　すぐ無くなっちまうぞ！」
　文貴はそういうと、託志と共にあっという間に走っていってしまった。そんな２人に徹がため息を吐くと、弁当箱をもった白沢絢子がくすくす笑う。
「白沢さんはお弁当なんだね」
「ええ。屋上で食べようと思って。それにしても、典町くんも神無月くんも楽しそうじゃない？」
「そうだけど……」
　絢子の言葉に、徹はちょっとだけ頷いた。

　購買。そこでは生徒達による争奪戦が繰り広げられていた。そのど真ん中で文貴が焼きそばパンを手にしていたが……同時に触れ合っていた手。託志である。人気のある焼きそばパンは最後の１つとなっていた。
「げっ、ラス１かよ！？」
「こいつはちょっと譲れねぇなぁ？」
　託志の言葉に、文貴がにっ、と笑う。
「それはこっちの台詞だ。いくらフミッキーでもな！」
「そうか……そんじゃまぁ……腕相撲で勝負しようじゃねーか！」
「望む所だ！」
　片手を焼きそばパンに置きつつ闘志燃やした眼差しで向かい合う２人。妙に近寄りがたいオーラが漂うなか、そこへと声をかける人が。
「そういう事ならテンチョー、この勝負のジャッジは俺がやってやろう！」
　この２人と仲が良い暗道忍がうむ、と頷いてそう言った。これは渡りに船だ、と笑う文貴と託志。彼らは忍に案内され、ひとまずその場を離れた。
　忍はぱぱっ、と特設リングを用意した。それは負けた方が絵の具で手が汚れてしまう、という仕組みのもの。いうなれば絵の具デスマッチ（？）仕様である。
「「……え、絵の具？」」
　怪訝そうな眼差しの文貴と託志に、忍はにっこり頷いた。
「気合が入るんじゃないかと思って。いいか？　反則は即負けだぞ」
　その言葉ににやり、と笑う眼鏡の２人。どこと無く互いの闘志で眼鏡が光っているようにも見える。