遠い夏の日が｜リアクション

遠い夏の日が

　チャイムがなり、皆が席に着いた頃に担当の教師がやってきた。こちらは色白の若い男性教師のようだ。
（男子はこの学校にいた……のよね？）
　そんなことを考えているのは白石妙子。彼女は元々女子高出身である為、男子の存在で僅かに混乱があった。けれどもすぐに別の事を考える。現在は４時間目であり、そろそろお腹がすく時間帯である。
（それよりも、お腹の音がならないか少し心配ね）
　僅かに頬を赤くしつつ顔を上げれば、教師が隣の列を指名し教科書を読ませていた。そして、隣の席である立樹はなにやら考え事をしているようだった。
（しっかし、学力的にはこのあたりでよかったかもな）
　志波高久は教科書をぱらぱら眺めながら内心で思う。ぼんやりとプールの方をみれば、授業をしているのだろうか、にぎやかな声が聞こえてくる。暫くの間耳を済ませていたが、前の席にいる深縹露草が教科書を読んでいる。次は自分だな、と思った高久はネクタイを緩めつつ読まれている文章に眼を落とした。
（そういえばシュークリームが上手に出来ないんだよなぁ。カスタードはともかく、問題は生地の方）
　自分の列が当てられている事にも気づかず、ノートに粉の分量などを書いてしまう立樹。それを妙子ははらはらと見守る。
（黄身の分量が曖昧なのが難しいし、最近湿度高いしなぁ。……焼いてから、暫く出さないほうが……）
「次、檜山君だよ！　教科書は……」
　いても経っても居られず妙子が小声で知らせれば、立樹は我に返る。そしてあわてて教科書をめくり、どうにか彼の番に間に合うのだった。

　そんな中、皐月は気だるそうに外を見ていた。教科書を前に立て、広げるのは映画館の上映予定表。やはり、美術以外の教科は苦手らしい。
（あーあ。今、学校がテロリストに占領されないかな……）
　されたらされたで超困るけど、とため息混じりに上映予定表をみながら、ノートの隅っこに何かをかりかり。それは前に座っている絢子だった。
「うん、いい感じ」
　小声で呟きながら書く皐月。彼女は見つかっていない事に安堵しつつ、ちまちまと落書きを続けるのだった。

　説明を聞きながら、高久は僅かな懐かしさと新鮮さを感じていた。彼が通っていた高校は学ランだったので寝子高の制服ははじめ緊張したものの、今ではずっとそれを着ているかのようになじんでいる。
（普段の意識を持っている人と、そうでない人がいるんだな）
　なんとなくあたりを見渡して、そんな事を思っていると、問題を提示されていた。咄嗟だったのでどう答えようかと考えていると、近くの席の妙子がこっそりとヒントを教えてくれる。おかげでどうにか答える事ができた高久は、妙子にこっそりと感謝の意を示すのであった。

　授業は滞りなく終わり、最後に夏休みの宿題についてや夏休み中の補講についての連絡があった。それが終わった頃チャイムが鳴り響く。いよいよお昼休みだ。