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渡されたギャルソン服に着替えた景貴。
「うーん、これでコスプレ完了なんですか？」
コスプレと聞いてイメージしていたものと違うのか、少し怪訝な表情だ。
なんせ仕事が洋菓子店だし。仕事着と、そこまで変わらないというか。
「ちょっと前に流行ったケーキ屋が舞台の漫画のコスプレだな。確かドラマ化もされてたぜ」
サイケデリックな柄シャツから、景貴と同じぱりっとしたギャルソン服に着替えたジニーが言う。
「なるほど、それでこの格好を……」
「にしても、なんか落ち着かねーなこのかっこ」
そんな話をしながら、連れ立ってコスプレ広場へと向かう。
「じゃあ、ポーズお願いできますか？」
ポーズ？　ときょとんとした顔になる景貴に、ジニーはコスプレ撮影はそういうものだと説明する。
改めてリクエストを聞いていると――、
「え？　腰を抱く？　キスのフリ？」
予想だにしていなかったものが飛んできて、景貴は目を白黒させた。
「コ、コスプレってそういう事もするんですか？」
助け舟を求めるようにジニーを見れば、
「そういうこともある。まー、軽い絡みだ」
しれっと返されてしまった。
「そ、そうなんですか……」
自分の中で、コスプレに対する認識が変わっていくのを感じた。
「じゃあ、お願いしまーす！」
「……は、はい。恥ずかしいですけれど、が……頑張ります」
とはいえ景貴の方は、当然動きがぎこちなく。
結果、ジニーがうまいことリードする格好に。

◇
柳霞が着せられたのは、某セーラー服美少女戦士の火を操る子の衣装だった。
実際着てみると、身体のラインとか足がばーんと出ていてかなり恥ずかしい。
それでもしっかりサマになっていて、衣装負けしていない辺りは凄いのではないだろうか。
とはいえ、一度引き受けた以上は頑張らないと。
アニメのポーズや台詞を教えてもらい、コスプレ広場へ。
景貴とジニーのコスプレ姿が見えて、自分の格好への恥ずかしさも忘れてしばし見つめる。
（景貴さんの衣装かっこいいなあ、すごく似合ってる！　……ジニーさんとイチャイチャしてるのは複雑だけど）
が、さっきの女性に再び声をかけられた途端、また恥ずかしさで頭がいっぱいになってしまう。
「あ、あの、やっぱり私……！」
つい両手で身体を隠すようにな体勢になりながら訴えると、
「大丈夫ですよ！　似たような格好した方いっぱい居ますよ見てください！」
なにがどう大丈夫なんだかわからない励ましのエールを送られた。
「え、ええっ……！」
「さあ！　どうぞ！」
「えっと……」
顔を赤くし、しどろもどろになりながら台詞を口にするのだった。

◆
洋美が着せられたのは、学園モノ恋愛ゲームのキャラクターの衣装だった。
「すごい！　よくお似合いですよ！」
更衣室へ連れてきた人は、手を叩いて歓声を上げている。
しかし、洋美としては学生の制服が似合うというのは複雑な心境だ。
まあ、喜んでもらえているようだし……いっか。
ただ、気になることもいくつか。
（スカート短いなぁ、後サイズも小さい気がする……）
ちょっときわどいし、きつい……？

スカートの裾をちょっと引っ張りつつ、コスプレ広場へ。
すると、ギャルソン服に身を包んだ見慣れた顔が目に入る。
「あ、劉さんたちもい……いちゃつい、てる？」
ちょうど、ジニーが景貴の腰を抱き、顎をくいっと持ち上げているところだった。
似合っている。
すごく似合っている。
でも、何か複雑だ。
（……でも、楽しそうだし水はさせないかな）
とは思いつつ、いつの間にか二人を見る目がジトーっとしていることには気づかない。

◇
「ほんとよくお似合いで！　助かります！　次は――」
すっと手を挙げ、ジニーは続くリクエストを制した。
「あー、さすがにコレ以上は」
気付いてしまった、洋美のジトーっとした視線が痛い。
「え、ええ……そうですね。できれば、このくらいにしてもらえると」
景貴も、苦笑交じりにやんわりとお断り。
そもそも、向こうも無理を言って手伝ってもらっている立場。
「そ、そうですよねー！　いやー、ありがとうございました！」
わりとすんなり、引き下がってくれた。

「そういえば、柳霞さんと洋美さんはどんなコスプレをしたんでしょう？」
景貴がふと口にすると、ちょうど撮影が終わったのを見た洋美が、二人の元へと近づいてきた。
「撮影お疲れ様です？」
勿論、彼女の衣装はさっき着た制服のまま。
「あ、洋美さん。よく似合ってますね」
「ありがとうございます。劉さん、この服どうですか？」
スカートの裾を軽く摘んで、問いかける。
それがとても良く似合っていて、ジニーは思わずどぎまぎしてしまう。
「ま、まあいいんじゃねーの。そこそこイケてるよ」
悟られまいとして、つい表情や声が硬くなってしまう。
それに、こう視線が。
（……コイツ結構胸あるなあ。――ってどこ見てんだ俺）
自分にツッコミをいれるように、髪をぐしゃぐしゃとやる。
そんな彼を、洋美はきょとんとした顔で見つめていた。
（よく分からないけど、喜んでくれたみたい？）

「洋美さん、柳霞さんがどこに居るか知りませんか？」
「柳霞ちゃんなら、そこで――」
と洋美が指した方を見てみると、なるほどノリノリで決め台詞とポーズをキメている柳霞の姿があった。
どうやら、段々と慣れてきたようだ。
身体のラインが出る服で堂々としているので、意外にスタイルがいいのがわかったり。
微笑ましそうに景貴が見ていると、
「火星に代わってせ――って、景貴さん！？」
それに気付いて、柳霞の顔がそれこそ火のように真っ赤になった。
「み、見ないでー恥ずかしい！」
あわあわと、手をあっちゃこっちゃさせて戸惑う柳霞。
その様子が可愛くて、景貴はつい顔をほころばせる。
「そんなに恥ずかしがらないで下さい、とても可愛いですし」
「う、うー……ありがとうございます」
嬉し恥ずかしで、まともに景貴の顔が見られない。

そんな二人の様子を眺めながら、
（荒井さんに見られるのは恥ずかしいんだ。やっぱりかわいい）
くすっと笑みをこぼす洋美。
一方ジニーは、
（景貴は余裕あんな。柳霞への接し方や褒め方もスマートだしよ……）
硬くなってしまう我が身と景貴を比較して、心の内でため息をついていた。

「よろしければ、記念に写真を撮ってもいいですか？」
最後に景貴の提案で、皆のコスプレ写真を撮るのだった。