【PINK！】

　夏のビーチとくれば、カキ氷だろ！　という店主さんのお言葉のもと、浜辺でカキ氷屋を出店中の、和菓子店『萩屋』。
　お昼を回ってしばらく、じりじりと衰えない暑さの中にあって、冷たいカキ氷が売れないわけがありません。店先に置いたテーブルセットは、常に満席状態！　本日の稼ぎは上々と言ったところです。
　ちなみにお客さんの中には、
「もーっ、ボクは至ってノーマル！　なんですからねっ」
「あはは、ごめんごめーん。興奮しちゃうとつい、ね？　翼さん、とっても可愛いから」
　夕鈴 翼、朝野 未沙の姿もありました。何だかその後、一緒に行動することになったようです。
　店を切り盛りする店主、矢萩 秋は、二人の前にことりと注文のカキ氷を置くと、
「ビーチ☆スターズコンテストか、懐かしいわね」
「８年前だったかしら。私もあのステージの上で、大立ち回りを演じたものよ」
「あれ、店長さんも出場したことあるんだ？」
「その時は、どんな感じだったんですか？」
　興味深げな未沙と翼に、秋はちょっぴり手を休め、当時の様子を語ってくれました。
　特攻服をあしらった水着で壇上へ上がった彼女、パフォーマンスの一環で、ステージ上で盛大なバトルを繰り広げ……そのインパクトとアクションが評価されて、受賞もしたのだとか。聞くとなんだか、すごいお話なのですけれど。
「ま、そんな思い出話はともかく。今はこの稼ぎ時に甘味を振舞う、和菓子屋の店主さんに落ち着いてるというわけ」
　と。
　興味深い秋のお話がひと段落したところで、
「おや。どうやら、今日の主役たちが戻ってきたみたいだわ♪」
　優しい笑顔を浮かべながらいそいそと出迎えたのは、彼女の大事な大事な妹たちと、そのお友達でした。



「……ひどい目に会ったわ。槙、あなた、良くそんなに堂々としてられるわね……」
「お姉ちゃん、大胆ですごかったよー！　綺麗だったなー」
　お友達と別れて戻ってきた矢萩 槇の無邪気さに、お姉ちゃんの矢萩 咲は苦笑い……と言いますか彼女、まだ例のブラジル水着を着たままだったりします。
「うむ！　見事な美であったぞ、我ほどでは無いがなっ」
「……ハァ」
　まぁ、相変わらずのルーシー・R・マクミラン、その取り繕うそぶりすらない開放的な姿を見ていたら、徐々に色々な感覚がマヒしてきてしまうのも、無理からぬことかも知れません。
　そんな妹たちの艶姿に、秋はご機嫌です。
「あはは、二人ともお疲れさま！　ルーシーだったかしら、それに哀坂さんたちも。コンテスト出場のお祝いに、甘味をご馳走しちゃうから、ゆっくりしていってね」
「わあ、ありがとうございます……！」
　顔を綻ばせた哀坂 零葉を始め、哀坂家の面々も、揃ってご相伴に預かることになりまして。店先はわいわいと、実に賑やかに盛り上がるのでした。
　どどん！　何やら向かい合って座らされた咲と哀坂 極夜は、目の前に置かれたそれと、お互いの顔をぱちくりと見合わせます。
「あの、秋様。これは……？」
「咲ちゃんとあなたには、コレね♪　さっ、仲良く飲んじゃって！」
　グラスで揺れる、青いトロピカルジュース。見た目にもゴージャスなそれはまさしく、仲睦まじい男女がイチャイチャするための例のやつ。一つのカップに二本のストロー、いわゆるひとつの、カップルドリンクです。
　ぼっ、と火の着いたように真っ赤になる咲。落ち着いて見えて意外に照れ屋さんな極夜も思わず、顔を赤らめて……とはいえお互い、結構、まんざらでも無かったりするのも確かでありまして。
「じゃあ、咲先輩……飲みましょうか。一緒に」
　真っ直ぐに見つめられ、どきり。普段は破廉恥な不純異性交遊を取り締まる立場の咲、けれど彼女だって女の子。
「……極夜君……え、ええ。そうね、一緒に……」
　周囲から届く、からかいというか援護射撃と言いますか、そんな声にも後押しされて。そっと近づけた顔……二人はちゅーっと、控えめながらドリンクを飲み始めました。
　傍らの哀坂 子夜は、そんな二人、弟と同級生の初々しい姿を眺めつつ、ふむ。と、ひとつ思案顔。
（恋……と、いうもの……なのかな。良く、分からないな……でも、咲君。君は、本当に……興味深いね）
　感情というものが分からない、子夜。彼女にとって、ころころと目まぐるしく表情の変わる咲の存在は、実に興味を惹かれるもののようです。
「……極夜兄さんが、女の人と、あんなに仲良く……！」
　ついでに、尊敬する兄の見慣れない様子に、相変わらず複雑な顔を浮かべる妹の零葉も、子夜には観察の対象だったりするのですけれど。
　零葉の視線にも気付かず……当の極夜はと言いますと。気付けば、眼前の咲に目を奪われ、見惚れてしまい……ついついぽろり、こんな言葉を漏らしてしまったりするのです。
「とても、綺麗です……咲先輩……」
「……～～～っ！」
　矢萩家と哀坂家。両家はそんな二人のやり取りを中心に据えつつ、交流と絆を深めていきました。



　……と、まぁ。
　和やかだったのは、そこまで！
「フフフ……やっぱり、時音の見込んだ、通り……咲、というお前。可愛い、やつだな……」
　哀坂 時音、真打登場！　であります。
「ところで、咲……気になってた、ことが、ある…………何色、なんだ？」
「何色ってなにが、って、ちょっあなた何して、やめ、いやーーーっ！？」
　時音はおもむろに、咲の水着をぺろんっ！
　何を確認しようとしたかは、ここでは言及を避けさせていただきますが、ともかく！　その様を目の前の極夜が、目を見開きながらばっちりと見てしまっていたのは確かです。
「さ、咲先輩……！　あ、その、すみません！　見てはいけないと解っているのですが、咲先輩と思うと、目が離せなく……」
「まじまじと見ないでーーーっ！！」
　絶叫する咲の受難を皮切りに。『萩屋』の店先は、大いなるカオスへと突入！
　黙っていれば凛々しくもカッコイイ時音、でも中身は何と言いますか、なかなかに残念美少女です。その毒牙は手広く伸ばされまして、カキ氷を食べつつ談笑中、本来は係わりが無かったであろう、翼と未沙をも巻き込みます。
「お前たちも、いいな……とても、いい。鳴かせて、みたいな……フフ」
「ひぇっ？　いきなり何を……ちょ、だからボクは、ノーマルなんですってばー！」
　むにゅん！　いたずらっ子翼、いつもなら極夜と咲をターゲットに、何かしら仕掛けているところなのですが。今回は少々、一枚上手なお姉さんたちに振り回されがち。
「きゃあ♪　あなたも、私とスキンシップ、したいのかなー？」
「む……お前、は……フフ。時音と……気が合いそう、だな……？」
　むにゅ、むにゅん！　挙句の果てに、女の子大好き、もとより拒むそぶりも無い未沙と時音が、何やら同調してしまったものですから。さあ大変！
　場の空気は加速度的に、桃色成分を増していくのです……！
　時音は妹の零葉も、むにゅん。
「フフ……可愛いぞ、零葉……？」
「ひぁん！？　だ、ダメだったら、時音姉さん……！！」
　未沙はルーシーをむにゅ、むにゅん。
「うわぁ、すっごいスタイル。ねえ、ちょっと触ってもいい？　いいよね？」
「やれやれ、我の美に魅せられてしまったか。今日は美男美女に囲まれて気分が良いしのう、特別に、我の美肌を堪能することを許そうぞ♪」
　知り合ったばかりの槙も、時音はむにゅん！
「大きい、な……大きいのも、時音は……好きだぞ……フ、フフフ」
「わ、わ？　アハハ、くすぐったいよ～！」
　きらん、未沙に目を付けられた子夜は、
「見てたよーコンテスト、触ってみたいなぁって思ってたんだ。いい？　いいよね？」
「私……かい？　私は……遠慮して、おくよ……」
「子夜さん、何で咲の背中を押すの！？」
　むにゅにゅにゅん！　身代わりとなった咲がむにゅむにゅされるという美しい光景を、
「咲先輩……やっぱり、綺麗です」
「いーーーやーーーっ！！」
　極夜は、やっぱり。吸い付けられるように目が離せず、自然、じっくりと見つめてしまうのでした。
　咲のトラウマがまた一つ増えていく、その横を抜け。こっそり混乱から逃れた翼は、秋の側へと退避。さすがにこの店主さんへと狼藉を働くほど、未沙も時音も命知らずでは無いということでしょうか？　彼女の周囲だけは、どうやら安全が確保されている様子。
　目の前で繰り広げられるピンク色の混沌に、翼はちょっと圧倒されつつ、
「うわぁ、すごいです……あっ、あんなことまで、うわぁ。あの、お姉さんたちは、いつもこうなんですか？」
「うん？　さあてねぇ、こういう賑やかなのは、私は大歓迎だけど。それよりあの二人、良い仕事するわね、ああっうちの妹たちがあんな表情を……！　もうっ、可愛すぎるわーっ！」
　ばしゃばしゃばしゃ！　唸るデジカメ、瞬きまくるフラッシュ！
　……なんか、ここもそんなに、安全では無いのかも。



　その後もまぁ、あんなことやこんなこと、ここではちょっと書けないようなことまで、あったりなかったり？　いろいろあったのは、確かですけれど。
　哀坂家と矢萩家、ルーシーに翼に未沙にと周囲をも巻き込みながら、文字通りに近づいた距離。どうやら何だかんだで、その関わり、繋がりを深めつつ、互いに親近感を増したようでありました。
　めでたしめでたし！
「めでたくないわよっ！　ああぁ、咲はまた、あんな恥辱を……！」
「ま、まぁまぁ、咲先輩。その、とてもお綺麗でしたし……」
　二人の距離もちょっぴり縮まって、めでたし！