【焼きそばです、とうもろこしです。そして、ラーメンです！】

「水着コンテストって、素晴らしいですねー♪」
　と、奈倉 藍は申しておりますものの。彼女の興味はと言いますと、壇上で輝く出場者たちの姿とは、違った方向にありまして。
　彼女の両手には焼きそば、焼きもろこし！　見渡す限りに軒を連ねる屋台では、たこ焼き、お好み焼きに、ラーメンや寝子島丼、デザートだってよりどりみどりの何でもござれ。
　そう、藍にとっての水着コンテストとは、まさしく食の祭典！
「食べ物屋さんがあっちにも、こっちにも！　はぁぁ、幸せです～……」
　彼女の食べっぷりは留まることを知らず、もはや全ての出店のメニューを制覇する勢い……だったのですが。
　ふいにコンテスト会場から、藍の名を呼ぶ声。そう、彼女にもご指名がかかっていたのでした。
「……はっ！？　い、いけない、食べるのに夢中ですっかり忘れて……あわわっ、い、今行きます～！」
　どうやら、食べ歩きツアーは一時中断せざるを得ないようです。

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●エントリーNo.32　奈倉 藍

「奈倉さーん、奈倉 藍さーん？　っと、来た来た！　はーいエントリーナンバー３２番、奈倉 藍さんの登場でーすっ！」
「わわ、す、すみません……！」
　慌ててステージへと駆け上がる藍。ちょっぴりつんのめって、あわわわ！　観客たちからは思わず、危ない……！　なんて声が上がります。
　何せ、慌てていた藍です。
　相変わらず、彼女の両手には焼きそば、焼きもろこし！
「あははー、なんてついつい笑っちゃうけど、分かる！　分かるなぁ、浜辺には美味しいもの満載だもんねー、ついついお腹が鳴ってしまうというものよん。でも奈倉さんは、水着だってバッチリ！　目に優しいパステルカラーの淡いブルー、パレオ付きの可愛らしい水着で、似合ってるわよー！　けっこー食いしん坊さんみたいだけど、ほっそりしてるわよねー羨ましいっ。後でそのスタイルの秘訣を、お姉さんにもこっそり教えてくれないかしら？」
　その秘密は、本人にも良く分からなかったりするのですが。
（結構、緊張しますねーこれは）
　なんて思いつつも、ほんわり天然さん気味な藍。以降は足取りも安定してつまづくこともなく、すたすた、やがて中央へ。
　くるりと一回転、翻るパレオ！
　一緒にふわり、両手の焼きそば焼きもろこしから漂わせたイイ匂いは、きっと客席にも届いたことでしょう。



　続いてのパフォーマンスタイム、特に持ち芸などは用意していない藍は、ひとしきり水着をアピールした後、自己紹介をすることにしました。
「えっと。寝子島高校２年２組、普通科の奈倉 藍です。趣味は、美味しいものを食べることとー……」
　両手に携えるのは、その言葉への大きな説得力。この後何人の観客たちが、焼きそば、焼きもろこしの屋台へと走るのでしょうか。
「えっと、えっと、それから……ニャンダムの模型を作ることでーす！」
　定番のニャンダム、けれど可憐な女の子の口からその名前が飛び出すのは、ちょっぴり意外だったのかも知れません。その筋に造詣の深い一部の観客たちから、おおーっ！　と、何だか嬉しそうな声が上がりました。
　ものづくりが好きなのは、彼女の親の影響です。その一つとして、藍はロボットも大好き！　なのでした。
　食いしん坊キャラ押し？　なんて勝手な先入観を抱かれていた彼女ですが、そんな意外性のあるところは、どうやら客席の興味を引いた様子。なかなかにウケが良いようです。
　……と、思いきや。
　最後の、藍の『アツい主張』はやっぱり、
「美味しい食べ物屋さんを知っている方は、ぜひぜひ！　私に教えてくださいねー、情報待ってまーす！」
　とまぁ、それだって、藍の可愛いところだったりもするわけでして。
　ぱちぱちぱち、大きな拍手にほんわか笑顔で応え、藍はくるりと踵を返しました。

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「ふーっ、なんとか終わりましたー！」
　出番を終えて、ステージ裏の控え室。
　藍は早速、手に持った焼きそばに焼きもろこし、買い食いの続きを……。
「……あ。冷めちゃってます……」
　残念、しょぼん。ずるるっと冷め切った焼きそばを頬張りますが、どうにも物足りません。
　ちょっぴり肩を落とす藍、お腹もきゅるるっと鳴いています。
　と。
「……うーっ。緊張してきたアル……」
　そんな藍の近くでぽつり、つぶやいたのは、次に出番を控える畑中 華菜子でした。
「こんな時は、そう。手のひらにラーメンという字を三回書いて……」
「ラーメンっ？」
「わぁ！？」
　やっぱり食いしん坊、その魅力的な単語に、藍は思わず反応を示してしまいまして。
「あ……ご、ごめんなさいー。ちょっと、お腹が空いちゃって……次はラーメンを食べるのも良いかなーって思ったら、つい」
「……ラーメン、好きアルか！？」
「はいー、もちろんラーメンも大好きですよー？」
　詳しいところはこの後のコンテストでの紹介に譲りますけれど、ともかく、ラーメン大好きな華菜子。藍の言葉に、きらきら、目を輝かせます。
　ついでに図らずも、かちかちだった彼女の緊張も、いくらか解れたようです。
　んーっ、と華菜子は少しばかり首を捻り、何かを思案した後。
「この後、時間あるアルか？」
「えっ、はい？」
　壇上からの呼び声。華菜子はステージへの階段を登りながら、藍を振り返り、言いました。
「ちょっと待ってて欲しいアル。緊張を取ってくれたお礼に、美味しいラーメンご馳走するアル！」
「えっ、ほんとですかー！？　じゃあ待ってますー、頑張ってくださいねー♪」
　元気に駆けていく華菜子を見送りながら、藍は焼きもろこしをしゃくしゃく。それはやっぱり、すっかり冷え切ってはいたものの。
　再びきゅるると鳴るお腹の音も、藍にとってはもはや、この後に待っているラーメンをより美味しくするための、スパイスのようなものだったりするのかも。

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●エントリーNo.33　畑中 華菜子

「続きましてー、こちらの元気娘さんのご登場っ！」
（アイヤー……や、やっぱりちょっと緊張するアル。でも、やるからには頑張るアル……！）

「Amazingッ！　チャイナよーチャイナ！　良いわよ良いわよー、エントリーナンバー３３、畑中 華菜子さんっ！　ロングパレオ付きのチャイナドレス風水着、鮮やかな赤に咲き乱れる花っ。でも落ち着いた色合いで派手すぎず、このお団子ヘアーともバッチリ合って、可愛らしい印象よねっ。彼女、実家のお店はラーメン屋さんなんだって、どーりでこんなにもチャイナが似合っちゃうってワケ！」
　それは関係あるのかな、っていうハルさんの解説ですけれど、ともかくチャイナはまさに華菜子のシンボル！　とも言うべきで、実に見事なマッチングなのです。
　その魅力には、最前列で応援中の赤羽 勇樹も、
「チャイナ風水着……似合ってます。ぐっ、鼻血が……！」
　鼻っ柱を押さえつつも抗えないようで、どくどくと熱い血潮を力強く放出しています……大丈夫でしょうか、彼。
　それはさておき、
（観客はみんな、キャベツ。ピーマン玉ねぎ、ニンジンもやし……そう、ここは畑アル。野菜炒めを作るための、畑アル！）
　独自の自己暗示で、壇上での緊張に抵抗する華菜子。そんな風に考えるうち、何だかちょっと、ラクになってきたかも。
　徐々に軽快になる足取り、ステージ真ん中へとたどりつくと、くるり。にっこり！
（うん。なんか楽しくなってきたアル）
　ぽっこりえくぼも可愛らしい華菜子の笑顔に、人々も元気を分けてもらっているのでしょう。
　まずはひとつ、拍手に迎えられながら、パフォーマンスタイムへ！



　ぺこり、頭を下げてから。
「寝子高１年４組の、畑中 華菜子ですアル。好きな食べ物は、ラーメンです！　得意な料理もラーメンです！」
　早速飛び出す、華菜子節。
　そう、華菜子と言ったら、ラーメン！　一にラーメン二にラーメン、三四もラーメン五もラーメン。趣味はラーメンですし、将来の目標だってラーメンです。あ、いえ、ラーメン屋です。
　華菜子の実家『猫島軒』は、そのものすばりラーメン屋さんでありまして、両親やその生業から多大な影響を受けながら育った、由緒正しき看板娘たる彼女。
　ラーメンのことなら誰にも負けない！　ラーメンで解決できないことは何も無い！
　華菜子はそんな、生粋のラーメン・ガールなわけなのでした。
「それでは、私のラーメンに対する熱い想いを歌います。聞いてくださいアル！」
　なので、彼女のパフォーマンスだって、もちろんラーメン関係です。
　　♪
　　　ラーメンです！　ラーメンです！
　　　　　　すごくラーメンです！　ラーメンは世界を救います！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　うん。なかなかに前衛的で、そして、実にラーメン愛に溢れる歌！
　華菜子のラーメン・ソングは人々に笑いと笑顔を、そしてついでに、そろそろ限界に近づきつつある頃合であるところの観客たちの空腹へ、びしばしとダイレクトアタックをかけていくのです。



　最後はやっぱり、これを言っておかないと！
　と言うことで。
「旧市街にあるラーメン屋『猫島軒』では、冷やし中華始まってます！　始まってます！」
　二回言いました。大事なことですので。
「皆さんどうぞ、遊びに来てくださいアルー！」
　宣伝もバッチリこなし、華菜子の出番は終了となりました。
　後日、あるいは今すぐにでも。『猫島軒』の売り上げは、きっと急上昇することになるのでしょう！

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「ラーメンです♪　ラーメンです♪　何だかついつい口ずさんじゃうわねーこれ。食べ物に縁のアルお二人でしたー、焼きそばにとうもろこしも美味しそうだったなーっ。リッカルド町長にサンマさんっ、いかがでしたか！」
「畑中 華菜子さん。エキゾチックなチャイナドレス風水着！　素晴らしかったですね。あれをあんなにも着こなせる方は、なかなかいないのではないでしょうか、畑中さんならではといったところですね。ところでイタリアにも中国人街があるのはご存知ですか？　魅力的なチャイナ美女たちとの出会いに、私の心は躍り……」
「女の子が美味そうに物を食べてる姿。良いよなぁ……！　上品なのも良いが、豪快な食べっぷりは、見てて胸がすくってもんだ。奈倉 藍ちゃんも、まだまだ食い足りないって感じだろ？　分かるぜ、夏の浜辺は水着だけじゃねえってことさ。良いんだぜ、存分に堪能してくれ！　それが夏ってもんだぜ！」

「水着も良いけど、食べ物もね！　お腹を満たすも、コンテストを楽しむお供にも良しっ。夏のビーチを彩る味覚の数々、みんなもぜひ味わっていってね！」