【アイドルとお嬢様】

　ビーチの端っこ、ちょこっと外れの海の家。
　喧騒から離れて、少しばかり穏やかな空気が流れる中、夢宮 瑠奈はお茶を楽しみながら、ほうっ、と柔らかく一息。
　テーブルセットの向こう側には、にこやかに微笑む天満 七星。じりじりと照りつける太陽の下で食べる、冷たいカキ氷は格別です。
　のんびり、ゆったりとした時間に、二人はたくさんおしゃべり。
「ねえななちゃん、どうやったらそんな風に、綺麗になれるの？」
「そんな、瑠奈さんこそ……とても可愛らしいのですわ」
　二人とも、違った魅力のある女の子たちです。連れ立って人波の中を歩けば、きっと誰もが振り返ることになるはず。
　どちらも、何だか……自然と人目を惹いてしまうような、そんなオーラを持っているのです。
　とはいえ今日は友達同士、こうしてゆっくりとお話をしたり、時には海で遊んだり、そんな過ごし方をしようと海へやってきた二人。
　……なのですけれど。やっぱり、コンテスト実行委員の見る目は確かで、静かな浜辺の端っこにいる逸材だって、見逃しはしないのでした。
「えっ、コンテストに……瑠奈さんだけではなく、私もですか？」
「ななちゃん、とっても綺麗だもの！　ふふ、今日はいいことがありそうって、予感がしてたんだ。一緒に出よっ、ななちゃん！」
　二人まとめての出場要請に、七星はちょっぴり、戸惑い気味。自分は瑠奈を応援する役柄、なんて自然と思っていたのですけれど……実行委員は、しきりに七星のことも褒めてくれるのです。
　そんな風に言われてしまっては、悪い気はしないもの。それに何だかんだで、度胸の据わっているらしい彼女です。
「そうですわね……分かりました。いきましょう、瑠奈さん！　目指すは注目度ナンバーワン！　ですわ！」
「うんっ、優勝目指して頑張ろっ！　一緒に、ね！」
　そして、ステージへ上がることには、並ならぬ意欲を持っている瑠奈。
　二人のコンビは、けっこー、強力みたいです！

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●エントリーNo.28　天満 七星
●エントリーNo.29　夢宮 瑠奈

「さーっ続きましては、このお二人に元気をもらっちゃいましょうー、どうぞっ！」

「や、やっぱり見られるのって、緊張しますわね……」
「大丈夫大丈夫っ。ほら、元気に、胸を張って！　ねっ」
　言葉ではそんな風に言いながらも、七星の歩みはなかなか堂々としたもので、様になっています。
　隣を行く瑠奈はもちろん、元気いっぱい！　アイドルを目指す彼女、実際に人前で歌ったことだって何度もあるのです。こんな時の彼女の頼もしさときたら、格別です。
　二人は観客の人々へ、満面の笑みを振り撒きます。
「天満 七星さんに、夢宮 瑠奈さーん！　お友達なお二人さんだけど、女の子の魅力は十人十色ってなわけで、どちらも違ってそこがイイっ。天満さんはスタイルが良くって、シックな黒のビキニがセクシーッ！　サングラスを頭に乗せてカジュアルな装いだけど、でも何だか神秘的な印象も受けるわねー。そうねー、お淑やかな、麗しき良家のお嬢様の夏休みってカンジかしらん？」
　司会者さんの言葉は冗談ではなくて、七星は実際、旧家のお嬢様だったりもします。それでいて、こんな風に一緒に水着コンテストにまで出場してくれる……彼女のフランクな一面は、瑠奈にとっても嬉しい部分です。
「夢宮さんは、あのギラギラ太陽に負けないってーくらいに、弾けるようなこの笑顔！　爽やかなライムグリーンがピッタリ、フリルスカートは夢宮さんにベストチョイスよね！　お日さまに向かってぐんと背伸びしながら咲き誇ろうと頑張る健気で可憐な花、なんてーイメージかなっお姉さんには。かーわいいっ！」
　これだけの観衆を前にしながらビクともしない様子で、瑠奈は皆に元気を分けてあげるかのように、めいっぱいに手を振ります。アイドルの卵、いずれはもっとビッグなステージへと上がることになるかも知れないのです。この程度で、怯んではいられません！
　そして彼女のそんな豪胆なところには、七星も助けられるシーンは多いのです。
　瑠奈の物怖じしない歩きっぷりに、七星もすっかり吹っ切れた様子。二人は並んで中央へ立つと、揃って、くるり！　タイミングもバッチリでありました。



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　魅惑の世界　魅力の世界
　　　あなたが堂々としてなけりゃ
　　　　　　　　　　誰かが困るでしょ？
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　瑠奈の歌には、確かな力がありました。ゆったりとしたテンポで、歌詞の一つ一つ、言葉に感情を込めて。
　アピールポイントは、いつだって、歌。それが瑠奈にとって、誰かに何かを伝える時の、とびっきりの方法なのです。
　　　♪
　　　　さあ怖がらないで　さあ勇気を出して
　　　　　　　　さあ一歩を踏んで　さあ旅立ちだ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　そして。七星はその後ろで、静かに。優雅に。彼女のために、舞うのです。
　大切なお友達。自分がここへ来られたのは、瑠奈がいたから。
　彼女と一緒なら、七星は不思議と、どこへだって行けるような気がしてくるのです。
　　♪
　　　未来へ向かって
　　　　　　未来へ向かって……
　　　　　　　　　　　　　　　♪
　歌と、舞。それらが渾然一体となって、ステージの上から、観客席へ。
　伝わる想いは、人々を確かに元気付け、勇気付けたはず。
　息を呑んだ人々はやがて、無心の拍手を二人へと贈りました。



　瑠奈は一歩進み出ると、『夏らしくアツい主張』を。
「あたしはね。素敵な夏を過ごせたなら、それが一番だなぁって思うんだ。例えばそれは、外に出て、今日は暑いなぁって感じることだったり……」
　それは、普通の夏。当たり前の夏。
「例えばそれは、アイスを食べて、冷たくて美味しいって感じることだったり。例えばそれは、どこか建物に入ったときの、ひんやり気持ちいい！　ってことだったり。ちょっとした、何気ないこと……そんな、夏だなぁって思える瞬間は、夏にしかないものだから」
　観客たちも、気付いたかもしれません。今この瞬間にも、自分たちは、夏を満喫してるんだっていうことに！
　続いて、七星の『アツい主張』。
　彼女はちらり、瑠奈に視線を寄せてから、口を開きました。
「……夏は、大きくなることのできる季節なのです。私はまだまだ、修行中……でもいつか、大きな力を持ちたいと思っていますわ。そう、『天満』の名に恥じないような、強力な『チカラ』を……」
　それは……願望？　決意表明？
　あるいは、その両方だったのかも知れません。
「だって、そうすれば、皆さんを守り……そして。導いていくことができるでしょう？」
　七星はそこで、言葉を区切りました。口には、出しませんでしたけれど……七星には、守りたいものがあるのです。
　隣で笑う、彼女。この屈託の無い笑顔を。
　人々を元気付け、癒していく『チカラ』を持った、この小さな歌唄いの友達を。
　彼女の、武器をもつことの無い、非力で小さな手を。彼女の志す、歌を通じて叶えたい、大きな夢を。
　それらを守ることこそが、七星にとっての、願い。
「ななちゃん？」
　ちょっぴり怪訝そうに首を傾けた瑠奈に、七星は微笑を返します。
「何でもありませんわ。さあ瑠奈さん、最後の締めですわ！」
「うん！」
　二人の主張は違うけれど。その方法は、違うけれど。
　いつか誰かの、笑顔のために。二人はきっと、同じ方向を向いているのです。
　揃って最後にぺこりと頭を下げ、両手を人々へ向かって大きく振って。二人は大歓声を背に、ステージを下りました。

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「お友達って良いよねぇ、うんうん。お姉さんもこれが終わったら、故郷の友人にお手紙の一つも書いてみようと思います、何だか今はそんな気分！　それはさておきー、リッカルド町長っ！」
「明るく朗らかな夢宮 瑠奈さん。とびきりの健やかな笑顔に、とても心が癒されましたね。落ち着いて淑やかな天満 七星さんには、大和撫子の美しい心意気を見た思いです。そして、そんなお二人のパフォーマンス！　まるでライブ会場を特等席で鑑賞しているような、素晴らしい臨場感と迫力を堪能させていただきました。
　歌や踊り、身体を使って何かを表現しようとする時、人は輝きを増すものです。私も、とあるパーティーの余興でステージへ上がった知人の女性が、普段とはまた違った魅力を放つところを見て、彼女にときめきを……」

「確かにこんだけの皆に見られてるーって思ったら、お姉さんもこう、きりりっと引き締まっちゃうもんね。え、ユルユルに見える？　そんなことないない！　さー気合入れてっ次！　いくわよー！」