全員強制緊縛Day｜リアクション

全員強制緊縛Day

◯
　体勢を崩しベッドに倒れ込んだ宮祀智瑜は――毛糸に絡まってしまった。
「きゃ、どうしましょう……！」
　しかも大きな智瑜の胸を上下で挟み強調するような形で毛糸が絡まっている。
　その上、その毛糸は智瑜の腕にも絡みつき、背中側で固定してしまった。
――どうしてそうなった。
「えっと……？」
　身体をひねってみる。だが絡まる一方で解ける気配もない。
「う～ッ！」
　目一杯腕に力を込めても、駄目。
「えいッ！」
　ベッドの上でゴロンゴロンと転がってみても、やっぱり駄目」
「ひゃん！」
　ますます毛糸は智瑜の身体を締め付け、胸を締め付ける。
「だったら……」
　ベッドから降りて立ち上がろうとするが、脚にまで絡まりそうになるので智瑜は慌ててベッドの上に戻る。
「……お祖父ちゃん呼んで助けてもらおうかな？」
　そう思い智瑜は大きく息を吸い込むが、その息が大声になることはなかった。
「…………」
　もしこんな格好の孫を見たら、きっと祖父はひどく驚くだろう。
　それに……、そんなの恥ずかしい。
「……やっぱり、自力でなんとかするしかないです」
　智瑜はまずハサミを探す。
　ハサミはすぐに見つかったが……
「……どうやって使いましょう？」
　手は背中で固定されている。どうしたって自力で取ることはできない。
（うー……）
　智瑜はベッドにゴロンと転がって、これからのことを考える。
　そうしている間に、少しずつ少しずつ智瑜の意識は沈んでいった。

◯
　その頃八神修は散歩を終えて、自宅に戻っていた。
　再び絡まってしまった雨寺凛を助け、羽生碧南と共にを無事桜花寮に送り届けて――もうすっかり日は沈んでいる。
「さて、と、今日もよく歩いたな」
　修は愛犬三匹を抱きしめて、そのお返しに顔をベロンベロン、舌で愛撫されたところでリードを離そうとした。
　しかし手に巻きつけておいたリードは、離れない。
「…………」
　痛くもない、苦しくもない。
　だが離れない。
「…………はぁ。俺まで解けなくなるとはな」
　諦めたというように修はため息をつく。
　そして、やはり神魂の影響だったのかと冷静に分析した。
　だが、問題ない。解決方法は既にわかっているのだから。
　先の件と同じように解決するため修は息を止めた。
　と。
　バウバウ、わんわん、きゃんきゃん、くんくん。
　ここぞとばかりに愛犬たちは甘えだした。
　つまるところ『だったらもっと遊んでよ、遊ぼうよ、っていうか遊んでくれるってことだよね！』
「わかった、わかったから！――今日は特別だぞ」
　もう少しだけ、そう言って修は再び『散歩』へ向かう。

――大丈夫ですか。髪の毛、絡まってますね。今、解くので動かないでくださいね。
――君、今これを落とさなかったか？　さ、もう落とさないように気をつけるんだぞ。
――小間結びって変に絡まっちゃうことありますよね、はい、どうぞ。もう解けましたよ。
　修は散歩の途中で、同じように解けなくなった人を見つけては『分解』して回っていた。
　声を掛けることもあれば、相手に気がつかれない内にろっこんを使うこともあった。
　その間も左手には犬達のリード。そう、あくまでも散歩中なのだ。
　そうしてずいぶんと遠くへ来た修と愛犬たち。
「なんだ？――ああ、喉が渇いたのか」
　修は喉の渇きを訴える彼らのために、自販機で水を購入した。
　そして右掌に水を注ぎ、そっと修は差し出した。
「さ、カーキーから順番に……そうだ、いい子だな」
　修の指示通り、一番小さなカーキーから順番に掌に貯められた水を舌で舐めとっていく。
「ふふ……くすぐったい」
　そしていつの間にか水を飲んでいたはずの犬たちは修自身を舐めだす。
「おいおい、こんな所でじゃれてくるなよ」
　ぺろぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろ。あっちもこっちも舐められ、じゃれつかれ、修は笑い転げる。
　空には月が煌々と輝く。
「……そろそろ家に帰ろうか、って、はは、ははは！
　というものの、なかなか帰ることはできそうにない。