全員強制緊縛Day｜リアクション

全員強制緊縛Day

◯
　同じように運動場もすっかり日暮れ色に染まっていた。長い影を携えて、一人、また一人と去っていく。
「おつ～！」
「お疲れ様でーす」
　挨拶を交わすと、どこかでお茶でもしようか、そんな会話に花を咲かせる友人たち。
「お疲れ様！」
　彼女らを見送ると、羽生碧南は身体にピタリと張り付いた体操服をつまんで引っ張ってみる。
（あー、汗でベトベト……）
　このまま着替えるのも、家に帰るのもちょっと……、ううん、結構抵抗がある。
（部活のシャワー借りちゃおうかな？）
　そうして碧南はシャワーを浴びるために更衣室に向かった。

　シャワーを浴び終えた碧南は制服に着替えていく。
　Ｙシャツに袖を通し、スカートを履く。
　それからニーハイソックスを履いて――といっても上背のある碧南の場合はそれでもハイソックス～ニーソックス程度の長さしかなかったけれど――残るはリボンタイ。
「んっ、これでいいかな」
　そのリボンタイも手早く結んで、念のため鏡を確認する。
「あ……」
　リボンタイが、やや斜めになっていた。
　上下左右のリボンのバランスも悪い。
　しかし碧南は結び直すことなく更衣室を後にする。
（寮に戻ったら部屋着のＴシャツとスパッツに着替えるし）
「……どうせ後は帰るだけだし！」
　そうして碧南が校舎の外に出た。
（あ～……！　早く帰らなきゃ！！
　帰って、楽な格好に着替えたら……、
　新作の乙ゲーをするんだから！
　今日こそ王子を落とすんだから！！）
　鼻歌交じりで帰路についたその時だった。
「――うわあああ！」
　遠くで女の子の悲鳴が聞こえてくる。
「……え？」
　碧南は慌てて振り返る。
　シャワーを浴びていたせいか、周りに人影はなく碧南以外にその声に気がついた人はいないらしい。
「……えっと、多分あっちの方から？」
　碧南は不安げにではあったが、声のする方へ急ぐ。

◯
「……あいたたた」
　階段から転げ落ちた雨寺凛。
　どうにか受け身をとったが全身を襲う痛みはゼロにはならない。
「……骨とか折れて……、ないかな？」
　下半身を引きずるようにして上半身を起こし、自身の身体を確かめていく
「うー……こんなところにアザが……」
　だが幸いな事に極端に痛む箇所や骨折はなさそうだった。
「はぁ、やっぱり前見て進まないと危ないね……」
　もう転がろうなんて無謀はやめる。
「でも、これどうやって帰ろう」
　いつもの帰り道を辿るだけなのに、秘境に遭難してしまったような、そんな不安感に襲われる。
　脚が使えないというただそれだけで。
「大丈夫ー？」
　凛が絶望の淵へ沈みかけたその時、穏やかなとした声が遠くから聞こえてくる。
　その声は徐々に徐々に近づいてきて、ついに声の主の姿が見えた。
「碧南、ちゃん？」
「あ、さっきの悲鳴って雨寺さん？　どうしたの……て、」
　凛の姿を目にした碧南は、話しながら状況を確認していく。
　まず凛の顔を見て、凛の置かれた状況を見て、そしてコードで巻かれた凛の脚を見る。
「あー……これは大変そうだね」
「う、うん……どうしても、解けなくて」
「どうしても……？」
「うん……もしかして碧南ちゃんのリボンも？」
　だとしたら、解けないのはもしかして――
　凛がそんな疑問を口にするが、
「え、ああ！　これはね、ちょっと……別に深い理由はないんだよ」
　碧南は言葉を濁して、首を振る。
　ほんのりと碧南の頬が赤く染まっていたが、今の凛はそこに気がつく余裕がない。
（どうしよう……）
　ただそんなことばかりがひっきりなしに凛の頭の中を行き交っていた。
「……碧南ちゃん。申し訳ないんだけど誰か、呼んできてもらえないかな？
　とりあえずこのままってわけにもいかないし、寮まで帰る手伝いをしてもらいたいなって……」
　このコードについては、無事に解けてから考えればいい。
「桜花寮までだよね？」
「う、うん」
「私も桜花寮だし、手伝うよ！」