ひまわりと『向日葵』｜リアクション

ひまわりと『向日葵』

◆
（甘味処『向日葵』かぁ……夏らしい良い名前だね）
『向日葵』の噂を聞いて、薄野一月が初めに思ったのはそんなことだった。
ひまわり大好きだし、小説のネタに行き詰っていたところだし。
気分転換に、お出かけすることにした。

そんなわけで、お昼を少し過ぎた頃『向日葵』に来店。
カウンター席に腰を降ろし、ふと映った光景に目を見張った。
窓から見える、一面のひまわり畑。花の黄色と空の青が描く、鮮やかなコントラスト。
その綺麗さに目を奪われていると、
「お客様？」
という日向の声にふと我に返る。
「ととっ」
ひまわりを堪能する前に、先に注文だけは済ませておかないと。
「いやー、すいませんね」
一月がバツが悪そうに苦笑すると、日向も「急かしてしまったみたいで、申し訳ありません」と。
「それで、ご注文は何になさいますか？」
そうだなー、とお品書きをざっと眺める。気分転換のつもりで来たし、さっぱりめのものがいいだろうか。
「よし、今日はあんみつと麦茶にしようかなー」
「あんみつと麦茶ですね、かしこまりました」
愛想よく笑みを浮かべて、日向はすっと奥へ消えていく。
ひまわり畑を眺めながら待っていると、お盆にあんみつと麦茶を乗せて日向が戻ってきた。
「お待たせいたしました、あんみつと麦茶です」
目の前へ並べる彼女に、ありがとうとお礼を。
「ねえねえ、お姉さん」
「はい、何でしょう？」
「お姉さん、ひまわり好き？　お店の名前とか場所とかで、そうなのかなって」
すると日向は、柔らかく微笑んで頷いた。
「ええ。子供の時から、ひまわりが好きで。こっちの道に入ってからは、いつかひまわりが見える所にお店を出したいなって」
なるほどね、と一月。
「じゃあ、お姉さんは夢を叶えたわけなんだね」
そう言うと、日向は少しはにかんだ。
「そういうことになります、ね」
「いいね、そういうの」
微笑んで、あんみつを一口。
「うん、美味しい。甘味の仕込みとかも、全部お姉さんが？」
日向が頷く。
「うちは見ての通り小さくて。従業員も私一人ですから」
だから営業時間も短めなんです、と小さく苦笑する。
「そっかー、一人じゃ大変だよねぇ」
無理にならない程度に頑張ってほしいなあ、と思ったり。

しっかし、と窓の外にまた視線を向ける。
（本当にここ、眺めが良いなー）
一面に咲くひまわり畑を見ていると、なんだか胸がいっぱいになる。
そういえば、と思い出すのは子供の頃のこと。
（俺もガキの頃は、ひまわりの中を走って遊んだっけ……）
夏のひまわり畑。
あんみつに麦茶。
それに、綺麗なお姉さん。
「……うん、よし！」
小説のネタが浮かんできた。
取り出した手帳に、ちょこっとメモをしながら。
一月はのんびりと、あんみつと麦茶とひまわり畑を楽しんだ。

◆
「これがあんみつ、か」
運ばれてきた甘味――あんみつを前に、六は呟いた。
傍らには、冷たい緑茶の入ったグラスが置かれている。
「あれ、東城あんみつ食べるのははじめて？」
そう問うたロベルトの目の前にも、やはりあんみつ。
冷たい緑茶も一緒である。
「ああ。メニューを見てもよくわからなかったから、ならロベルトくんと同じものを頼んでみようかと」
「あー、なるほど。なら初めてのあんみつ、よく味わわないとね」
なんてね、と笑うロベルト。六はああと頷いて、あんみつを一口に運ぶ。
さっぱりとした甘みが、口の中に広がる。
（美味い……初めて食べた）
うまくは言えないけど、なんだか贅沢な感じがする。
そのまま黙々と食べ続ける六に、
「どうかな、美味しい？」
とロベルト。もっとも、見ていれば答えはなんとなく、察しがつくような気もする。
「ああ、うん。美味いよ」
端的な答えに、そっかと笑う。
「僕も食べよっと。……うん、美味しいなこれ」
ふと視線を窓の向こうへ向ければ、一面のひまわり畑が映る。
「ひまわりも綺麗だし……ふむ」
向日葵畑に佇む一軒の甘味処……いい。創作意欲も刺激されてくる。