ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】｜リアクション

ドラゴン喚ぼうぜ！【蛤】

　　【ドラドラコイコイ～、ドラドラコイコイ～】

　時間は既に丑三つ時。
　流石に夜更かしに慣れていない者、及び幼児達全員が白沢先生も含め、全員用意されていたテントの中で眠ってしまった頃。

　ほぼ確実に太るであろう夜食を、半泣き状態でむさぼり食らう女子２人の姿があった。
　一人は、幼児化が解けて大人に戻った下着姿の矢萩咲。
　もう一人は、八神修の上着を羽織ってかなりきわどい上半身の伊賀解理。

　何も出来ない皆が、空腹で気絶している解理用にせめても、と思って残した料理を２人で分けて食していた。
　２人の心は一つであった。

　『何でこんな目に……！！』

　「こうなったら元の世界に戻ったら部屋に戻るまで目撃者みんなぶっ飛ばす！
　だから英気を養ってやる！」
　残された量が欠食児童基準なのが幸いした。一人前にしては余りに大量だった料理をがむしゃらに貪り尽くす解理と、

　「…咲は何故下着姿なんですか！？
　うわぁああ！！見るなー！」

　と、叫んでは今度こそ高校年生に相応しい威力のろっこん【メガエラ・フォース】をぶっ放し、何人もの気絶に至る犠牲者を出した、矢萩咲。
　しかし、そんな咲の負の感情は留まる事を知らず、食べながらも尚、蓄積されていく一方であった。

　そんな最中で、砂浜にまだ起きている一人の少年の姿があった。その姿は、倉前七瀬。

　「よく食べました。もう当分ハマグリは食べたくありません」
　どうやら食後の散歩らしい。しばし満足げに海岸沿いを歩いていて──ふと、思い至った。思い至ってしまった。

　「もう一回呪文唱えたら次こそドラゴンが召喚されたりしないでしょうか？」
　それはまさに悪魔の誘いであった。
　しかし、好奇心旺盛な彼の心は止められない。
　……幸か不幸か止められそう人も誰一人としていなかった。

　「ドラドラコイコイ～、ドラドラコイコイ～……なんてね」
　──その言葉を告げた瞬間。

　ざぱぁ……っ！

　浅瀬から少し離れたところに、一つ、長い首が伸びている。
　「え……？」
　七瀬が面食らう中、それは胴体までも長くゆっくりと空中に浮遊した。

　威厳を隠さない伝説の、龍──まさかの対面。

　「こ、こんなのを呼び出そうとしてたんですね、僕は──」
　唖然としつつも感動を隠せない。
　しかし、いきなりこんな物が出てきても自分には対処法が見つからない。

　ただ、それに気付いたテーブルに座していた女性２人は冷静だった。
　冷静──とは、若干違っていたかも知れない。

　「うわあああ！！　これ以上見るなぁーーーー！！」
　「うわぁああ！！　見るなー！」

　解理の【代理告白】と咲の【メガエラ・フォース】が唸りを上げる。
　２色の光が、一直線に飛来してきた龍に直撃した！

　ちゅどーん
　
　あまりにも間抜けだった。
　あまりにも間抜けな音を立てて、龍は再び海の中へと沈んでいった。

　「………………
　……女性はキレさせちゃいけないんですね。うち、学びました」

　ぽつりと、真顔で七瀬が呟く。
　その瞬間、世界が反転した。

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