作ろう、オリジナルバッグ♪｜リアクション

作ろう、オリジナルバッグ♪

●いざ手芸店へ

「幼稚園とか保育所で子供が使う袋物って、ママの手作りで、っての多いみたいなのですよね」
　偶然その場に混じった、椿美咲紀は呟くと細く息を吐いた。
　美咲紀が言うようにトートバッグと言えば、お手製バッグの初級編にして代表格。
　ママの手作りバッグを手に、はしゃぐ子供の姿を想像すると微笑ましいし、出来れば自分も将来は挑戦してみたいな、なんて思ったりするのだが。
「私も、お裁縫はちょっと苦手なのです……きゅぅ」
　涙目の美咲紀だったが、無骨を絵に描いたようなクマこと寝子島高校・体育教諭の吉田熊吉ですら、６歳の娘のためにトートバッグ作ると言う。
　その無謀な挑戦に勇気をもらって、美咲紀は握った拳に小さく力をこめた。
「うん。私もクマちゃんセンセを応援しつつ、小物作成にチャレンジするのです」

　桃川圭花は辛辣だった。
　クマと奴の手の中の失敗作を二度見して、眉を寄せた彼女は、開口一番。
「本気で言ってるの……？」
　初手から本気だった。
　隣でオロオロする美咲紀をよそに、オブラートに包まない率直な感想を漏らす。
　圭花はクマの手から、失敗作を引ったくって肩を竦める。
「ていうか、何このセンス……信じられない」
　寝子高のファッションリーダーとしては、目を覆いたくなる。
「え、これ何かおかしいか？」
　不安そうなクマに、美咲紀ですら圭花に同意する。
「言いにくいのですけどぉ……仮にうまく縫えてたとしても、恥ずかしくて持って歩く気にはなれないのです……ごめんなさい」
　ショックを受けるクマに、圭花が追い討ちをかける。
「その子……チカちゃんだっけ？　これじゃ不憫過ぎでしょ」
　クマなりに頑張ったであろう事は伺えるが、残念感が拭えない。
　いくら名前がチカだからって、うるさ過ぎる柄物の合わせ技と、カラーリングで目がチカチカするとか寒すぎる。他にも突っ込みどころが多すぎて、バッグとしての機能すら持ち得なかった、不恰好な布の固まりをお手玉していた圭花だが、ふとクマの絆創膏だらけの指を見、ジト目で睨んだ。
「仕方ないわね……行くわよ」
「え？　行くって、どこへだ？」
　きょとんとするクマに、圭花は失敗作をトスした。
「手芸店よ、決まってるでしょ。このまま終ったんじゃ、悔しいでしょ？」
「お、おう！」
「新しいのを買って、１から作り直しましょ。その布は傷みすぎてて、使えそうもないし雑巾にでもするのね」
「むう、それしかなさそうだな。頼んだぜ、先生」
　気を取り直して後を追いかけようとするクマに、圭花はクルリと振り返ると、人差し指を突きつけた。
「頼むじゃなくて、自分で考えるのよ」
「お、おう！？」
「私はあくまで、デザインの提案をするだけよ。先に言っとくと、私、裁縫は全然ダメだから期待しないで。血、見たくないでしょ？」
　ふん、と鼻を鳴らす圭花に、美咲紀は心の中でオトモダチ！　と叫んだ。
「なるほど。それだけでも俺は、デザインとかいうのがわからねえから大助かりだぜ！」
　後ろ頭を掻くクマ。
「大丈夫ですよ、ちゃんと私達がフォローしますから。チカちゃんのために、頑張りましょうね」
　駄菓子店『きらく屋』の孫娘・折口ゆづきの励ましを受け、クマは分厚い掌で自身の両頬を勢いよく叩いて吼えた。
「そうだな、考えてても始まらねえ！　人間、死ぬ気でぶつかればどうにかなるもんだ。よし、やるぞー！！」
　地鳴りの如く大声に圭花は迷惑そうに振り返り、発言内容に突っ込もうとしてやめた。
　何だか、不毛な気がして。
「私も頑張るのです！」
　美咲紀がハーイと手を揚げて、一行は手芸店へと移動した。

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