故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

【夏】故郷の風

●感じ取った優しさ

　仲村渠鳴の地元は沖縄県。
（高校に入ってから帰るのは初めてだな……みんなに成長した姿を見せられるといいな）
　空港につくと、沖縄の懐かしい空気が体を包み込む。
「パパ、ママ、ただいま」
　空港のロビーには、迎えに来てくれた鳴の両親が待っていた。

　実家は那覇市内だが、帰省するなり、久米島にいるおばぁ（祖母）の家に向かう。
　空気も海も綺麗な久米島は、鳴の一番のお気に入りの場所だ。
「ハイサイ、おばぁ」
　元気にやってきた鳴を見たおばぁは、目を細め、孫が元気なのを安心して微笑む。

　おばぁの家に来た日の夜は、親戚や近所の人が集まり宴会を。
　ゴーヤーチャンプルー、ソーキといったおばぁが作った沖縄料理がテーブルに並べられ、大人達は泡盛を飲み、三線の音に合わせカチャーシー（両手をを頭上に掲げ左右に振り、足を踏み鳴らす踊り）を踊っている。
　横のつながりが強い沖縄は、他人を気遣って心配する、助け合うことが自然にできるところだ。
　親戚のひとりが本土に行った鳴を心配し、寝子島でのことを根掘り葉掘り聞いてきたのでいろいろ話す。
「友達……できたかなぁ。部活にも入ったし、一緒に音楽活動する人とも出会ったよ。結構、充実してるかも」
　親戚、ご近所さんが鳴が喋るたびに大げさに相槌を打ったりするので、自分のことを真剣に心配してくれてるのがわかる。
（子供の頃は、いろいろ心配かけたからなー）
　そう思いながら食べたおばぁの作ってくれた郷土料理は、とても美味しかった。
　味覚異常なため味が感じないはずなのに、故郷の「味」を初めて感じた。
「おいしい……」
　味を感じたのは初めてなので、嬉しくて涙がこぼれた。
（あーダメだな、また心配かけちゃうよ）
　涙を拭い、ニコッと笑い「おいしい」と言う鳴を見て、皆は、寝子島でも元気でやっているなと安心した。
　おばぁの家での宴会は、夜遅くまで続いた。

　深夜。
　目が覚めた鳴は、隣の部屋にいる両親の会話を聞いてしまった。
　あの子が笑顔になったのは、きっと寝子島の神様のご利益があったから。
　寝子島に行かせて、本当に良かったと泣いて喜んでいた。
　その話を聞いた鳴は、両親が喜んでくれたことが嬉しくて泣いてしまった。

　翌日。
　那覇の家に戻るなり、両親に言われ、お店にある沖縄の琉装を着て写真撮影することに。
　琉球王国時代に王族、士族のみが着用していた自然の鮮やかな色彩を取り込んだ華やかさが魅力な沖縄の民族衣装は、今では観光客がレンタルして記念撮影したり、婚礼用衣装に用いられている。
　鳴が着ているのは、舞踏用の黄色地に花柄の紅型（びんがた）琉装で、頭に花笠を被っている。
「お店に飾るモデル用写真？　……ちょっと恥ずかしいけど、いいよ。綺麗に撮ってね」
　恥ずかしいが、両親を喜ばせたいので断れず。恥らいながら、ポーズを撮る。

（今まで心配かけた分、あたし、もっと頑張らなきゃ。次に写真に写る時は、もっといい表情ができるように）
　パソコン画面に映し出された写真を見て、今度は、これよりもっといい顔で映りたいと鳴は思った。
　この写真は、できたらアルバムにして送ってくれると撮影した父が言った。

　両親は一人娘が味覚異常であることを憐み、鳴を甘やかして育てた。
　その結果、鳴はわがままで甘えん坊になり、周囲と衝突しやすく小・中学校時代はいじめられていた。
　寝子島でもいじめられていないかと心配したが、おばぁの家で聞いた話、撮影の時の表情を見た両親は、娘の成長ぶりを誰よりも喜んだ。
　大丈夫？　と訊ねると「なんくるないさー」と鳴はニッコリ笑って答えた。

　何とかなるさ。今も、これからも。