故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●対照的な家庭

「帰省か。あんまり帰りたくないんだけど……」
　親友の雨崎荒太郎が帰省すると言うので、雪見大福は付き合って帰省することに。
　ふたりの実家があるのは、寝子島から１時間ほどの東京の下町。
　昼過ぎに着いたふたりは、それぞれの実家へ。
　雨崎家は離れに祖父母宅がある二世帯住宅二階建てで、近所にある雪見家は大きな一軒家だ。
「大福、荷物置いたらすぐ家に来てね。皆、待ってるって！」
「わかった。置いたら行くから」

「久しぶりの我が家ー、ただいまっ！」
　足取り軽やかな荒太郎が帰宅するなり、雨崎家に元気な声が響く。
「おかえりなさい」
　天然ボケで優しい母は、帰ってきた息子が少し成長したのを喜んだ。
「兄ちゃん、遅いっ！」
　小学生で３番目の妹の雪奈は、出迎えるなり腹パン。
　兄にいきなり腹パンするほど気が強くてすばしっこいが、本当は泣き虫でファザコンだ。
「おかえりー！」
　一番下の妹の曳奈は、悶絶する荒太郎にお構いなしに元気良く体当たり。
「ゆきな、えな、元気してた？　これ、お土産～……」
　雪奈の腹パンが強烈だったのか、お土産の饅頭や寝子島サイダーなどをうずくまったままの体勢で手渡す。
「あらあら。おイタは駄目よ、雪奈、曳奈」
「「はーい」」
　襲い来る痛みの最中、恋人と夏を過ごしてたのは家族には絶対に秘密にしないと……と思った。
（大人の事情……あいつの誕生日だからね……）

「ただいまー」
　中学では生徒会長のしっかり者で、一家のツッコミ役の一番上の妹の楓香が夏期講習から帰ってきた。
「荒太郎、おかえり」
　外見は兄に似ていて性格は真面目だが、兄を名前で呼び捨てにする一面も。
「お、おかえり、楓香。大福も帰ってきてるよ」
「え？　ハルくん来てるの！？」
　大福に気があるので、帰ってきていると聞くなりご機嫌の模様。
「ぼくが帰って来たのは嬉しくないの？」
「家族だから、別に何とも思わないけど」
「ひどーい！」

　賑やかな雨崎家とは対照的に、大福の実家は静かだった。
　自宅に荷物を置きに行った大福は、普段、家にいない唯一の家族の養父がいることに少し驚いた。
「帰ってたのか、大福」
　なに白々しいことを言ってんだよ、と思いつつ「雪見さん、ただいま帰りました」と挨拶を。
（わざわざ俺が帰ってくる日に仕事を休んでまで顔を合わせようとするなんて、よっぽど暇なんだろう）
　荷物を置いたらすぐに家を出ると伝えると、養父が振り向き、ぎこちない微笑でこう言った。
「……おめでとう、大福」
「何がですか？」
　その言葉の意味は何だかわかっていたが、笑顔でそう答えた大福は部屋を出る。
「出かけるのか？」
　養父がそう聞くので足を止め「荷物を置きに来ただけですから」と言い、振り向きもせず実家を出て行った。
　行き先を察知した養父は、大福がどこに行くのかわかっていたので何も言わず。

（両親が離婚して、何度も苗字が変わった俺を養ったくれた雪見さんには感謝してるが……）
　現在の養父と暮らし始めたが軋轢があり、家にいづらくなった大福は、薦められるがまま猫鳴館に行くことにしたのだった。
（おめでとうだなんて、血の繋がっていない赤の他人のガキに普通言えるか？　さっさと見限ってくれればいいのに）
　優しいが、不器用な養父なりの誕生日祝いとだというのがわかっていたが、大福は素直に喜ぶことができなかった。
　
　もし、ふたりが本当の親子のように仲が良ければ、大福は、こんなに苦しい思いはしなくてすんだだろう。