故郷での夏休み｜リアクション

故郷での夏休み

●すれ違いな親子

　恵御納夏朝の実家は、茨城県つくば市の中心部から少し外れた田んぼとかが多い田舎寄りの地域にある。
　中古物件で購入した良質な２階建て一軒家の実家は、夏朝が中学に上がる時に引っ越し、寝子島に行くまでそこで暮らしていた。
　記憶が混乱している夏朝はそう思い込んでいるが、実際には中学２年の夏休みに父、恵御納久隆の転職と転校を機に越してきたのが真相だ。
　両親は諸事情でそう思い込んでいるのだと思い、その件に関しては訂正していない。

　帰省２日目の朝は、６時に目が覚めた。
　その頃、誰よりも早く起きた母の恵御納理沙は、朝ご飯を作り始めている。
「今日のご飯は白米に具だくさんのお味噌汁、タコときゅうりの酢の物に焼き魚、卵焼きにたくあんよ」
　焼き魚に添える大根を、鼻歌を歌いながらおろす。
　日本に帰化したドイツ系日本人の理沙は日本文化が大好き、日本文化に触れるのが趣味なので和食派だ。
　本当はもっと作りたいが、あまり多いのも……と思いやめた。その分、腕によりをかけ、てきぱきと一品ずつ作る。
「おはよう、理沙。朝食作り、私も手伝うよ」
「おはよう、旦那様～」
　手伝いに来たのは久隆は、夏朝がせっかく帰省したのに有給が取れず、遠出できないことが心苦しい。
　その分、食事や帰宅時は家族団欒のひと時を過ごしたい。朝食作りを手伝うのは「これはお父さんが作ったんだよ」と言いたいから。
「手伝いたいって？　とっても嬉しい！　けど……」
「けど？」
「今日はお仕事がある日だから、私に任せてゆっくりしてて、ね？」
　久隆の申し出は、やんわりと断られた。
　それと同時に、夏朝は２階の自室から階段を下り、台所へ。

「おはよう……お母さん。手伝いたいんだけど」
「夏朝ちゃん、おはよう～！　夏朝ちゃんもお手伝いしたいの？　すっごく嬉しい！　けど……」
　せっかく家に帰ってきたんだし、ゆっくりしてて、と父同様、やんわり断られた。
「うん……そうする」
　居間にいる父が申し訳なさそうな顔で夏朝を見ているので、自分と同じように、母に回避されたんだろうなぁと思った。
「おはよう、お父さん」
「おはよう、夏朝」
「早く目が覚めたから、お母さんのお手伝いをしようと思ったけど……」
「理沙に手伝いを断られたんだね？」
「うん……」
　落ち込み気味のふたりだったが、理沙の「ご飯ができたわよ～」という声で立ち直った。

「理沙の卵焼き、美味しいよ。食べれば疲れが吹き飛ぶような気がするよ」
「お味噌汁おいしい……」
　理沙の料理は手間暇かけられているので１日３食、旅館やホテルの朝食のようなメニュー……わけではなく、普段からこうである。
「旦那様と夏朝ちゃんに喜んでもらえて、私、すごく嬉しいわ～」
　ぱっと見、ロングウェーブの金髪に碧眼の１０代後半に見える母が、見た目より更に若く見えた。
　傍目から見たこの光景は、夫ラブの幼な妻とその妹の団欒、といった感じだった。

「ごちそうさま。そろそろ仕事に行く時間だ」
　食べ終えた朝食の食器を片づけようとしたが、理沙に支度をしなさいと言われ、これも手伝えず。
　出勤準備を終えた父は、駅に向かうのに使う車があるガレージへ。
「お父さん……これからお仕事なんだね」
「夏朝が帰省中くらいはゆっくりしたかったが、仕方ない。……すまん、行ってくる」
「いってらっしゃい……気を付けてね」
　寂しそうな夏朝と対照的に、母は手をブンブン振ってお見送り。
「いってらっしゃい、旦那様～」