大北海道物産展 in ｍｉａｏ｜リアクション

大北海道物産展 in ｍｉａｏ

「いいか中学生……。おにいちゃんが保護するからな……安心しろ……」
　人で溢れかえる大展示場を、彩斗は弦月を庇いながらかきわける。
（この人、結構いいやつ）
　正直、鬱陶しいし面倒くさいとしか思えなかった彩斗を、弦月はちょっと頼もしく見つめる。
　男の子にしてはまだまだ成長期で小柄な弦月だけだと、この人ごみは乗り越えられなかったかもしれない。
　決して屈強とは言いがたい彩斗は、大切な相方の弟のために、いま必死で隙間を作っている。
（さっきから、兄の話ばっかりで、イラついてたけど。ちょっとぐらいなら、教えてやってもいいかな）
　遠まわしにいろいろ弦月の兄の様子を聞いてくる彩斗に、そんなことを思いつつ。
　ゆっくりゆっくり、目的地に向かってゆく。

「い、いらっしゃいませー！　大雪山の美味しいお水と、そこで育ったおいしい食べ物ですよー！」
　澄佳は緊張した面持ちで呼び込みをする。
（だ、大丈夫だべか、訛ってないだべか）　
　道産子訛りはとても愛らしいのだが、北海道以外で出てしまうと妙に恥ずかしいかもしれない。
「美味しいお水は北海道より冷凍保存され、ここ、寝子島まで配送されてきました。ミネラル豊富ですよー！」
　澄佳の呼び込みに、宮祀智瑜が足を止める。
　すかさず、澄佳が試飲を勧めてみる。
　おずおずと手を差し伸べる澄佳から、智瑜は紙コップを受け取って一口飲んでみる。
「……！　美味しいです！」
　ただの水のはずなのに、北海道の雪山の中から湧き出る清涼な水のイメージが智瑜の脳裏に浮かぶ。
　今時ミネラルウォーターなどコンビにでも買えるものだが、この大雪恵で売られている水は一味もふた味も違うようだ。
「米粉のシフォンケーキなどもお勧めです。米粉で作ったふんわりした食感が美味しいよう！」
「柔らかくて甘すぎなくて、本当に美味しいですね」
　澄佳に勧められるまま、智瑜は試食したシフォンケーキの感想を漏らす。
　小麦粉とはまた違った、しっとりふっくりした柔らかさが米粉のシフォンケーキの食感だった。
　智瑜は売られているシフォンケーキの賞味期限を確認する。
　うん。
　この期限なら大丈夫そう。
「それじゃ、美味しいお水とシフォンケーキ、ひとつずつお願いします」
「ありがとうございます！　ぜひまたいらしてくださいですよー」
　手際よく袋詰めして、澄佳は笑顔で智瑜を見送る。
（もしかして、同じ高校だったりするだべか？）
　とても高校生には見えない智瑜の後姿を見送りつつ、澄佳はふと、そんなことを思う。
　同じ学年でないことは確かなのだが、寝子高で見かけた気がするのだ。
　もし夏休み明けに学校で会えたら、いろいろと話してみよう。
　そんなことを思いつつ、澄佳は再び呼び込みに精を出す。