大北海道物産展 in ｍｉａｏ｜リアクション

大北海道物産展 in ｍｉａｏ

「北海道ならではといえば、この生チョコははずせないわ」
　圭花の目的。
　それは、ニャイズの生チョコ。
　極普通のチョコレートでありながら、口溶けの良さと風味、そしてなんともいえない柔らかさは、一度食べたら忘れられない。
　あの味を知ってしまったら、もう、後には戻れない。
　そう、北海道に行きたくてもいかれないというのに、圭花の舌が、全身が、あの味を求め続けていたのだ。
　ニャイズの店先で、圭花はこくりと喉を鳴らす。
　一箱、定番品をつかむ。
　二箱、期間限定の洋ナシタイプに手を伸ばす。
　三箱、北海道の淡雪のように白いホワイトチョコに手を伸ばす。
　もっともっともっと。
　そんな舌の欲求をぐっと押さえ、圭花は会計を済ませる。
　心臓が高鳴る。
　待ち望んでいた一品を手に入れたこの喜びは、そう、まるで恋する乙女。
　世界中の音という音が煌いて、圭花を祝福しているのだ。
　神々に愛されるのを実感しながら、圭花はイートインへ向かう。
　せっかく手にした理想の味。
　それを今すぐ味あわずにいられようか？
　いや、ない。
　一刻も早く、圭花の舌へ、あの、魅惑の世界を。
　心の中の祝音を聞きながら、圭花は一口、生チョコを口に運ぶ。
（舌に入れた瞬間に広がる濃厚な世界、これこそが待ち望んでいた味よ）
　圭花が至福に身を任せていたその横で。
　じー……。
（ん？）
　視線を感じた。
「すっごく、美味しそうなのだ！」
　真央だ。
　子猫のように瞳を輝かせて、圭花を見つめている。
「北海道で甘いのっていったら、当然コレよね」
「それはなんなのだ？　真央ちゃんが買った生チョコと違う感じなのだ」
「え……まさか、知らないの？」
「真央ちゃんのはこっちなのだ。そっちは知らないのだ」
「それじゃ、あなたの舌はまだ自分のレーゾンデートルと巡り合ってないのね……」
「れーるででーと？」
「レゾンデートル。存在意義よ」
「よくわからないのだっ」
「だから、一粒試してみて？」
　いいながら、圭花は真央の口へ、生チョコをひとつ入れてあげる。
「おーいーしーいーのーだーーーーーーー！！！」
「そうでしょう？　いいわ、もっと食べても」
「うれしいのだ、真央ちゃん幸せなのだ」
　本当にうれしそうに食べている真央をみていると、圭花もなんだか嬉しくなってくる。
（私のお金で買ったんだけど……まぁ、いいわ）
　真央はほとんど一人で平らげてしまった。
　けれど圭花としては、ニャイズの生チョコファンが増えれば増えるほど、世界が喜びで満ち溢れると思えば安いもの。
「幸せの口どけ、大切に味わってね？」
　そうして、真央が最後まで美味しく食べるのを見守った。