夏の炬燵（コタツ）｜リアクション

夏の炬燵（コタツ）

　奈良橋博美。
　彼女は栄えある猫鳴館の自治会メンバーだ。

　ようやく整理整頓され始めた猫鳴館。
　そこに登場したわけのわからないコタツ。
　しかもなんか、みんなエンジョイしてるし。

「神経が分からない！」

　奈良橋流古武術継承者の血がたぎる！
　委員としての使命感が吼える！
　このような異常事態、見過ごすわけにはゆかぬ！

「みんな、夏にコタツなんてどうかしてる！　さっさと出よう！」

　彼女の促しに、伸幸は黙って頭まで入り込む。
　言葉不要の、完全な、パーフェクトな拒否。
　いそいそとお菓子やお茶を配置しなおし、片づけにくくするしおり。

（駄目だ……説得が通用しない……これは、ろっこんの仕業？）

　自分の想像に博美は戦慄する。
　生真面目な彼女の頭には、自分の意志を奪われた犠牲者たちの悶える姿が、ぐるぐる渦巻く。
　
「彼らを早くコタツから出さないと！」

（ろっこん相手に説得は難しい……策が必要だ！）

「おーい、でてこーい」
　博美はコタツに向けて呼びかける。
　にゅっと伸幸の指先だけが突き出てパタパタする。
　あたかも猫がしっぽを振って、拒否するかのように。
　
　博美は笑う。それは予想できていた。
「ほーら、みかんだよー」どこからともなくみかんを取り出す博美。「コタツといったらみかんだ！　食べたかったら、出ておいでー」
「みかんならあるよー」皮をひらひらさせるしおり。

　博美は笑う。それも予想通り。
「じゃあ、キウイはどうだ！」
「おおっ！」ずばっと顔を突き出す、一同と猫。
　一つ差し出し、彼女はそれをぱかっと割ってみせる。エメラルド色の、ジューシーな果肉がきらりと光る。
「うおお……これは意外な取り合わせだ……」うめき声をあげる鷹取先輩。「しかし糖度たっぷり……酸味も効いている……コタツで食べて、うまくないわけはない……」
「ほーら、出てくればあげるよー」笑いながら博美は傍らを見る。
　思った通り、猫はふにゃふにゃとつぶれている。

　博美がキウイを差し出したのは、もう一つの作戦があった。
　キウイ。別名オニマタタビ。
　猫に対してのリーサル・ウエポン。
　コタツ片づけの障害となる猫を無力化する必殺武器。

（猫はコタツで丸くなるという歌がある。猫がコタツに絡むのは、道理！）
　将を射んとすれば、まず馬から。
　コタツを射んとすれば、まず猫から。

　そんな猫に、波状攻撃を仕掛ける博美。
「ほら、サンマだよ！　ネコマンマはどうだ！」
「にゃー」
　絶妙にコタツから出なければ取れない位置に置き、猫に試練を与える博美。
　これは時間の問題。
「あとは、人間の方だが……」

　人間の方が始末に負えなかった！