夏の炬燵（コタツ）｜リアクション

夏の炬燵（コタツ）

「あら」

　顔をのぞかせたのは神野美野梨。
　ミステリ研で、合理主義者。期待できそうな気がする。頑張って！

　コタツと、それを囲む一団を見つめる美野梨。

　彼女は合理的に状況を判断する。
　神魂の影響でいろんなことが起こっているとはいえ、コタツが自動的に出現したとは考えにくい。
　何かしらの意図があって出現したはず。
　それを突き止めなければ、この謎は解明されないだろう。
「興味深いわ……。この暑さの中でコタツが出されているのは、なぜ？」

「誰が出したのか知らない？」
　美野梨は一同に尋ねる。首をふるしおりと伸幸。鷹取先輩も否定する。
「最初から出ていた……」
「もともとはどこにあったものなんですか？」美野梨は鷹取先輩に問いただす。
「押し入れにしまってあったのを……見た気がする……」うわごとのように呟く。
　考え込む美野梨。
「我慢大会でもしようというの？　それとも……コタツに何か隠してあるとか。
　地下帝国の入り口とか」

　たしかにまあ、理屈は通っているが……発想がワンダフル。
　
　美野梨は意を決し、コタツに近づく。これ以上は実地で調査しなければ判明しない。
　群がる猫を「ごめんね」とよけて、そろりと布団の端を持ち上げる。

「コタツ……おばあちゃんの家にあったわ、懐かしいわね」
　お金持ちだった彼女。家にコタツはなかった。
　彼女にとってコタツとは……あらかじめ失われた郷愁（なんのこっちゃ）。
　
　布団覗き込んだ彼女が、何を目にしたのかはわからない。
「何も見なかったわ」
　そう言う美野梨。なんでか自分に言いきかせるような調子。
「電源はオフになってるわね」コードを取り上げ、確認する。節電のため。エコ！　
「一緒に入ればあったかいよー。というわけでご一緒に！」ふとんをめくるしおり。
　その発言に、ぴくりと肩を震わせる美野梨。
　なにかがせめぎあっている。
　頑張って！　負けないで！　これ以上カオスを加速させないで！

　長い時間が過ぎた。美野梨は冷静さをとりもどす。
　
　とりあえず状況は把握できた。これから先の進展によって判明することもあるだろう。

　うなずいた彼女はコタツに入り込む。って、結局入るんかい！
　好奇心が満足された彼女は、コタツを適度にエンジョイし、幸せになるという温和路線をとることになったようだ。

　美野梨は冷たいお茶を運んできた。
「暑いから、脱水症状に気をつけなくてはならないわね」
　そんなところが合理的！　うぐうぐと冷たいお茶を楽しむ一同。
　若干のヒンヤリ感も入ったところで、ぐだぐだは加速する。

「せっかくだから猫と話がしたいわね……」猫を呼びよせる美野梨。
ドアの隙間から、にゃあにゃあにゃあと十匹ばかり猫が入り込む。

　地の果て、至上の時。千年の悦楽。そんな解理。

（もう、いいや……このまま寝ていよう……）

　トロトロのメガ級、メガトロンな彼女の傍らを猫たちはすたすたと歩み去り、ぐしゃぐしゃとワカメ頭を踏みつけ、美野梨の周りに侍る。

　状況が好転しないぞ！