ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！｜リアクション

ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！

　こうしてすべての、ライブステージが終わった。
　ステージからの音はどれも魅力的だった。
　白浜渚にとっては、色とりどりの宝石が詰まったジュエルケースを開けたような一日だった。
　渚は最初、恐る恐るといった様子で、出店で買った焼きソバなどを少しずつ食べながら、ステージからの音に耳を傾けていた。
　それがやがて、ステージ側まで移動して、ステージで披露されてるライブを見ながら音を楽しむようになった。まるで、音に吸い寄せられたかのように。
　しかし渚はアリーナまでは入らなかった。少しエネルギッシュすぎて気後れしたのだった。
　でも大丈夫。
　アリーナに入ってオールスタンディングで観るのが本来の楽しみ方だろうが、砂浜の岩に座って、やや遠目にステージを眺めるのも立派なメインステージの楽しみ方だ。
　渚はそうやって、寝子島高校軽音学部から元気をわけてもらい、
　末明せれねの楽しいステージにマッサージされた気持ちになって、
　狛猫の構築美と様式美に酔い、
　クラウンギアのドライブ感を味わって、
　ＤＯＧ１１０、桃色シロウサギＺwith因幡眠兎の二大グループのステージには手拍子で参加し、
　月曜日の野良猫に圧倒されて、
　lieによるフィナーレに胸を熱くしたのだった。
　どのステージも素晴らしかった。
　フェスティバル会場はもうしばらく開いたままになるが、もう多くの客が帰路につきだしている。
　渚も立ち上がっていた。
　ぱっぱと砂をはたくと、彼女はそっと公園の木陰に入っている。
　めくるめくステージに、バンドたちの共演に、刺激されたせいだろう。
　どうしても歌いたくなっていた。
　そうして、周囲に誰もいないことを確認すると、渚はそっと歌い出したのだった。

　調べと調べが息を合わせて
　響きと響きが手を取り合って
　旋律と旋律が肩を組んで
　溢れる音がダンスを踊る

　幸せが潮風に乗って公園を巡り
　喜びが夜風に乗って駅前に呼び込み
　笑いがそよ風に乗って神社を駆け抜け
　数多の風が祭りの空気を運んでいく

　このとき海風が吹き、その歌声を会場に流し込んだ。
　これを耳にして、足を止めた人は少なくない。
　絹のようになめらかな歌声だった。一度耳にすれば忘れられないほど美しい。
　そして物静かに、語りかけてくるような節回しだった。
　それは渚の歌を耳にした多くの者が、その声を間近に感じたほどだ。
　矢萩秋などは、
「お？　まだステージが？」
　と思わず振り返ってしまった。
　しかしステージの灯は消えたままである。見回しても歌い手の姿はない。
　葛西一義も足を止めて歌手を探した者の一人だ。されど声の主を見つけることはできなかった。
「ということはまさか妖精かなにかか？　フェスの精霊……？」
　まさかな、と一義は苦笑した。
　けれど、まんざら悪い考えでもないような気がした。

　やがてこの『フェスの精霊』は、一種の都市伝説としてひろまっていくことになるのだが、それはまた、別の話である。

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