７２時間耐久！　フジコと行く酪農体験アルバイト！｜リアクション

７２時間耐久！　フジコと行く酪農体験アルバイト！

【３日目：早朝（朝食）】

　農家の朝は早い。
　だが俺自身も普段から朝が早いから問題はない。
　流石に３日目となると疲れた顔してる奴も多いな……。
　そして俺たちは今、何故か太極拳を行っている。
（ナレーター：邪衣士）

　尾鎌蛇那伊が始めた目覚めの運動、太極拳。
　普段から気を練る事に重きを置く彼にとって体調のリズムを整える意味合いもある。
　フジコもそれに気が付いたのか、最終日は牧場に関わる全員を叩き起して行う事に。
　宇佐見望月は緩慢な動きを行いながら、ボソリと呟く。
「ここ、日本だよな？　栃木県の那須高原だよな？」
　彼の目の前には、テレビでしか見たことがない中国の公園の風景が繰り広げられている真っ最中だ。
「朝４時起きはランニングしてるから慣れてる。無茶振りはねーちゃんのイロイロで慣れてる。ゴキ退治も豚追いも別に大丈夫だったけどさ……」
　このカオスは何なのだろう……。
　思わず遠いところを眺めてしまう。
　宇佐見は３日前、姉から実家であるお好み焼き屋の店番を頼まれていた。
　そこへ夏休み中にバイトをしようとやって来た邪衣。
　店主不在と聞いて彼が出直そうとしたそのとき、まさかのフジコ来店。
　そのまま２人を連れ去ってしまったのだ。
　店はその後、姉へフジコが連絡したので事なきを得たそうだが、強引すぎる手腕に宇佐見は苦笑いを浮かべてしまう。

「え、３日目は牧場全域で牛の世話っスか？！」
　宇佐見は朝食の巨大おにぎりを頬張りながら声が上ずってしまった。
「グッとハードルが上がったわね。でも大きな仕事を手伝わせてもらえるという事は、それだけ私たちの評価が高いって事よね」
　尾鎌も頷きながらおにぎりに手を伸ばす。
　本日の富士山牧場の朝は、煮玉子入り巨大おにぎりと味噌汁、そして肉餃子と自家製野菜ジュースだった。
「朝から肉餃子……」
　八神修はここの朝食のレベルにカルチャーショックを覚えている。
「この野菜ジュース美味しい！　広子さん、後でレシピ教えて！」
　野菜大好き椿美咲紀は新鮮野菜のジュースでご機嫌だ。
「野菜ジュース、200円だっぺ」
「お金取るの！？」
　広子ジョークに椿はタジタジである。
「それにしてもビックリしたな～」
　と、宇佐見がおもむろに口を開くので、参加者たちはチラリと彼の顔を見遣った。
「んあ、フジコちゃんセンセーパパに聞いたんだけどさ、栃木ってよ、本州で一番牛乳作ってるんだって！」
「俺も聞いたことがある。あとレモンの味のしない黄色い牛乳が有名だったり」
　八神の博識ぶりは今日も健在だ。
　宇佐見も負けずにウンチクを披露していく。
「それにさ、肉牛って、ケンカして傷が付かないように角を切っておくんだって」
「怪我したら大変だよね、痛いのはいやん」
　椿はうんうんと頷いている。
　気分が良くなった宇佐見は、ここぞとばかりにとっておきの話を披露した。
「あとなー？　肉牛の雄はチ●コねーんだってさ！　これは豚にも言えることらしーぜ？　チ●コ付いてると臭みが出て肉の味が落ちるんだってよ、面白れー話だよなー」
「……宇佐見先輩、ここには女子もいますから、その、チン――ゴホゴホンッを連呼するのはやめましょうよ」
　八神がやんわり歯止めをかけると、宇佐見は冷静に周囲を見渡す。
　椿は顔を赤らめ俯いている。
　他の女性陣も「こういう時、どういう顔すればいいか分からない」と言いたげである。
「うぉっとと……！　えーと、わ、笑えばいいと思うぜ？」
　あはははーと宇佐見自身が笑ってごまかすのだった。
　そして黙々とおにぎりを咀嚼することに専念した。