７２時間耐久！　フジコと行く酪農体験アルバイト！｜リアクション

７２時間耐久！　フジコと行く酪農体験アルバイト！

【３日目：午後～夕方（牛回収）】

　フジコ父が運転するトラクターの風を感じながら、八神と椿たち牛舎清掃班が先発隊に追い付いた。
　尾鎌は餌やり場に干草を軽々と運搬していた。
「ちょうどいい負荷ね。むしろ普段から重たいものを運び慣れてるアタシには少し物足りないぐらいね」
　本人もやる気十分だ。
　宇佐見は陸上部所属のスキルを見せるべく、干草を持って構える。
「イくぜ、干し草の塊投げッ、うりゃぁあああ！！　ハンマー投げ選手なめんなぁ！」
　吠える宇佐見から放たれる干草！
　そこに群がる牛たち！
　ダイナミック餌やりに従業員たちが爆笑。
　あんちゃん元気だな、と全員からからかわれていた。
「……修ちゃん、生きてるのだ？」
　澱んだ目のまま作業する八神に、思わず後木は声を掛けざるを得ない。
　フジコブレス・ハリケーンで、八神のライフポイントはもうゼロに近かった。
「トラクターの風は気持ちいいな……」
　今、彼の唯一の癒しは、牧場の風だけである。

　そろそろ夕方。牛を牛舎に戻さねばならない。
「源五郎衛門さん、馬はいますか？」
　ふと、椿はフジコ父に尋ねた。
　牛追いするなら馬を使うだろうと考え、星ヶ丘で培った乗馬経験を活かしたいと申し出た。
　フジコ父曰く、２頭いるうちの１頭を貸し与えるという。
「ありがとうございます！　牧羊犬？はいないからお馬さんもいないのかと心配だったわ」
　椿、念願叶って乗馬。
　本当は牛追い犬とも仲良くなる予定だったが、この牧場にはいないので断念。
　椿はフジコ父の指示通り牛を追い込み、群れへ合流させていく。
　その手腕に従業員たちは大絶賛。
「出会ったばかりなのに、お利口さんね！　またあなたに乗ってみたいわ！　ぎゅっ♪」
　椿は馬に感謝し、思わず熱い抱擁を交わすのだった。

「ほら、そろそろ帰るわよ？」
　尾鎌は午前と同様、後ろから牛を押せば、八神もカーキーの力を借りて、仔牛を群れへ誘導していく。
「ホースクラブで似たようなことさせているからかな、我ながら筋がいいと思うよ」
　飼い主も親バカぶりを遺憾なく発揮している。
　そうしている間に八神は牛に囲まれてしまった。
　彼は動物にやたら好かれるのだ！
「た、助けてくれ！　牛が俺を担いで、何処へ行くんだ！？」
　そこへ邪衣が率いる牛の群れが、ストレス軽減のモーツァルトの曲をラジカセで流しながら八神に接近。
「しかし牛さん達や、なんで俺の周りに集まってくるんだ？　熊は仲間じゃないぞ？　俺について来るのはいいが牛舎は何処だ？　って、八神、退け！」
　２つの群れが、合体ッ。

「ほいほい、戻ってこーい戻ってこーい！　ふぁ、帰りのバスでぜってー寝てやる。うひぃ！　フジコちゃんセンセー、今は寝ません、寝ませんって！」
　宇佐見が牛舎で牛を放り込んでいると、遠くから巨大な影が牛たちとともに接近！
　影は優雅な曲を流しながらどんどん此方へ行進してくるのだ。
「何かしら、あれ？」
　尾鎌は警戒態勢を取る。
「あれは、きっとダイダラボッチよ！　那須高原の山のヌシだわ！　取材しなきゃ！」
　椿が新聞部魂を燃やし、果敢に突撃インタヴューを敢行！
「山のヌシさん、こんばんわ！　って……、２人とも何してるんですか？」
　山のヌシの正体は……。
　熊の毛皮を被った八神を肩車した邪衣が、牛に跨っていたのだ。
「――着いたぞ。降りろよ、八神」
　邪衣は疲労の色を露わにしていた。
「降りたらまた俺は牛にさらわれるだろ。邪衣だって、俺のナビでここまで来れたんだし、おあいこだ」
　八神も嘆息を吐いてしまう。

　こうして、最後までカオスな酪農体験バイトは無事に終了し、１人３万円という高額報酬を獲得したのでありました。
　夏の思い出が、またひとつ出来たね！

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