【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）｜リアクション

【ネコミケ】修羅場を超えろ！寝子島大爆発！（芸術的な意味で）

　霧切翠子は隠れオタクである。
　当然、ネコミケに参加しないはずがない。
「ネコミケ？　学校の選択課題？　そんなもの、１ヶ月前に済ませてあるわ！」
　桜花寮の自室にて１人でドヤ顔する霧切は、修羅場とは無縁の現状に余裕しゃくしゃくだ。
「変わりやすい旬ジャンルもの以外の本はオリキャラが多めだし、冬が終わってから即座に描いて、しかも某ニャンプギャグ漫画のように不測の事態に備えてストックもある！」
　ババッとオーバーリアクションで寝巻きに着替え、大きく育った胸元を張って呟く。
「結構大きめなサークルの１人だからこれぐらいやっておかないとね！」
　……誰もいない部屋で、独り言が多くなる人は多いらしい。
（今年の夏は初夏に色々合ったからな……。一時はどうなるかと思ったけど、何とかなった……。本当にどうかしてたよ私）
　平穏を取り戻した後、霧切は必死に同人誌の原稿と向き合っていたのだ。
「さて、もう業者に触手本や純愛本は出したし、地方組に通販希望もされてるし、たぶん完売できるでしょう！　朝霧大介（ペンネーム）名義だからきっと去年同じく私だってバレナーイ。うん、大丈夫大丈夫……」
　その時、男子寮から「うおおおおお！」という雄叫びが聞こえてきた。
「あーあ、今夜が修羅場なんだね。どこの誰か分からないけど、がんばって。……ぁふ、寝よ……」
　霧切が横になった直後、彼女のスマホに着信が……。
「ぅぅ……、こんな時間に何……？」
　寝付き始めた頃に起こされ、若干ふてくされながら霧切は電話に出た。
「あ、印刷業者の方ですか？　なんでこんな時間に電話を……？」
　印刷業者の言葉に、霧切は耳を疑った。
「え、こちらの手違いで３巻目のやつの５ページ目から１３ページまでのセリフ部分が消えた！？　時間ないから口頭で伝えてほしい？　……ファッ！？」
　つまり、こういうことである。

　頑張って仕上げた原稿が……。

　＿人人人人人＿
　＞突然の落丁＜
　￣ＹＹＹＹＹ￣

　原因：霧切のミス
　時間：ネコミケ間近の深夜
　題名：生きろ！　ホモクレ！

　霧切はすかさず確認した。
「えっと、３巻目ってことは、……触手本のやつですよね？」
　業者は事務的に肯定した。
「マジっすか……。口頭でセリフ言うんですね……、口頭……！？」
　霧切は頭を抱えた。
（ちょ、人に聞かれたら２学期から全力逃走必死なんだけど！）
　だが霧切には羞恥心にかまけて新刊を落とすような無様な真似は許さない。
（こうなりゃヤケだ……！）
　ちょうどこの時、霧切に神魂効果が発動する。
　彼女は手元にあったゲラを手に取ると、感情たっぷりにセリフを読み上げ始めた。
「何だコイツっ！　クソ放せっ！　あ……ッ！？」

（しばらくして）

　霧切「やぁああぁぁっ！　そんな、こと、されたら……っ、お゛お゛お゛お゛～！　●●●●裂げぢゃうー！」
　業者「すいません、最後の単語は３文字ですか？　４文字ですか？　ちょっと聞き取れませんでしたので、もう一度お願い出来ますか？」
　霧切「え？　あ、４文字です！　●●●●です、●●●●！」
　業者「分かりました、●●●●ですね。次のページお願いします」
　こうして、口頭で次々にセリフの穴埋めをしていく霧切。
　彼女の目は次第に淀み始めていた。
（なんで私はこんな夜にこんなこと言ってるんだ！　よりによって触手本だったし！！　しかも業者さんすごい淡々としてるー！）
　事務的に進める業者に、霧切のほうが羞恥心を煽られて真っ赤に顔が染まっていく。
（業者さんもうマジやめて！　恥ずかしいー！）
　だが、神魂効果でセリフの演技に熱が入る霧切であった。
　霧切「広げちゃ駄目なのぉ！」
　業者「繰り返します、『広げちゃらめなのぉ』ですか？」
　霧切「違います！　『だ』です、『だ』！　『ら』じゃなくて！」

　霧切の夜は、まだまだ長くなりそうだ。

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