私を野球に連れてって！｜リアクション

私を野球に連れてって！

「それにしても、なんというか、野球観戦してる時のこの一体感っていいですよね、水樹さん」
　しおりに話しかけられて、水樹は我に返った。ドルフィンズがボロ負けするシーンを期待していたのに、いつの間にかグラウンドで躍動する選手の姿に夢中になっている自分がいた。
「そう、ね……。今まで野球は詳しくなかったけど、緊迫感のある試合はいいものよね」
　試合は４回の表まで進んでいた。ドルフィンズは２回裏に２点を加えたあとは、両軍の先発が踏ん張り無失点。先頭打者は４番・テネシー。ドルフィンズ・馬場と今日二度目の対戦に臨んでいる。
「フルカウント、か……」
「見てるだけでも緊張するわね……」
　ドルフィンズ悲運のエース・馬場と王者タイタンズの４番・テネシー。両者の対決は必然的に緊張感のあるものになる。

　山田勘三郎は盛大に転んだ。
「大丈夫かい、兄ちゃん？」
「ええ、なんとか……」
　バッターの放ったファールフライが危うく直撃するところだった。売り物のポテトフライが一部潰れてしまっている。
「ああ、売場責任者のおばちゃんに怒られる……場所が悪いのかなあ、ちょっと移動するか……って、また！」
　なぜかファールフライが自分のところにばかり飛んでくるような気がする。こっそり足を休めて試合を見ていたりしたバチが当たったか？
「うーん、好投手相手にバッターがファールで粘るところは見たかったけど、これじゃたまらんぞ。よし！」
　こうなったら、間違ってもボールが当たりそうにない外野席だ！
　勘三郎はいそいそと移動を始める。投手と打者の対決は、10球を数えてもまだ決着がつかない。
「よし、ここまでくれば安心！ホームランでも打たない限りボールに当たらない！」
　そう、確かに安全な場所だった。打者がホームランを打たない限りは。
　粘りに粘った13球目、真ん中の甘い直球を見逃してくれるほど、テネシーは甘いバッターではない。真芯で捉えた打球は、まっすぐにレフトスタンドへ……。
「冗談じゃないよ！」
　また逃げる羽目になった勘三郎の悲鳴は、スタジアムの歓声にかき消されていった。

〈四回表　ドルフィンズ２－１タイタンズ〉