【７】

　分散した変態たちは、まずは校庭へと雪崩込んだ。
　すぐに標的となったのは、部活帰りの雨寺 凛だ。
　愛用のギターを背負い、家路へ急ぐ雨寺の視界に飛び込むショッキングピンクの全身タイツ御一行様。
「あわわ……、なんか変な人に見られてる……？　って、こっち来たー！？」
「「黒髪パッツン萌えー！」」
　変態どもが寄って集って雨寺を取り囲む！
「こ、来ないで！　……そうだ！」
　雨寺は咄嗟に右耳を触り、ろっこん『虚偽声楽』を発動！
（黒板の引っ掻き音で追っ払おう！）

『キイイイイイイイイッ！！』

「「うわああああー！」」
「よし、今のうちに！」
　変態たちの包囲網をかいくぐる雨寺だが、次々と新手の変態が彼女を追い詰めていく！
「いやぁ！！　まだ追いかけてくるのー！？」
　パニックになる雨寺のスカートが翻るのを、変態どもは見逃さなかった！
　
「「ジェットストリームパンチラァァッ！」」
　
　すぱーんっと変態たちが一陣の風となり、『スカートをめくり、お尻へタッチ、お尻の形で性格判断』という一連の流れを僅か１秒で行ってみせる！
　まさにろっこんの無駄遣いである。
「や、やあああっ！？　そんなとこ触らないでぇっ……！！」
「へっへっへ、嫌よ嫌よも好きのうちと言うからなぁ？」
「本気で嫌がってるんだってばー！」
　青ざめた顔のまま、再び変態に取り囲まれてしまう雨寺。
（もう駄目かも……。私、お嫁に行けない身体になっちゃうのかな……？　パパ、ママ、ごめんなさい……！）
　雨寺、覚悟を決めて身を差し出そうとしたその時だった！
　
「雨寺ちゃんから離れろォー！！」

　突如、赤い三角コーンが変態の頭を直撃する！
　そこへ飛び蹴りとともに乱入するは、陸上部の準備をしていた桐野 正也だ！
「きりのん先輩！？」
　待望のナイト、騎士のんの登場に、思わず涙ぐむ雨寺！
「部活の準備しねぇといけねぇのに、アホなことで手間取らせるんじゃねぇよ変態ども！」
　すかさず雨寺の前に立ちはだかり、ガードの態勢を取る桐野。
「大丈夫か、雨寺ちゃん！」
「き、きりのんセンパァ～い！　変な人が追いかけてくるんです、助けて下さい！　うわぁぁぁぁん……！」
　よほど安心したのか、桐野の背中にしがみつく雨寺。
＜雨寺ちゃん、くっつきすぎ！　ヤバイヤバイ！＞
　思わず桐野のろっこん『思ったー』で心の声が吹き出しとなって具現化してしまう。
　だが、今日の桐野は一味違った。
「……なぁ、てめぇら。なに下らない事やってんだよ？　しかも女子泣かして楽しいか、おい？」
　可愛い後輩を泣かされ、笑顔でキレる桐野。三角コーンを槍のように突き出し、変態たちを牽制する。
「性欲をおっぴろげにするのはどうかと思うし、多勢に無勢ってぇのも許せないな」
＜右ストレートでぶっ飛ばす！　右ストレートでぶっ飛ばす！　右ストレートでぶっ飛ばす！＞
　背後の吹き出しも殺る気に満ちた発言で溢れまくってる。
「来いよ変態ども。その仮面、引っペがしてやる」
　桐野は笑顔のまま、手近な変態を三角コーンでド突き始める！
「どうしたァ！？　三角コーンは意外と攻撃力あるんだぞオラ！」
　そして怯んだ変態の仮面を次々に剥がし回っていく！
「す、素顔だけはー！　サーセン！　ごめんなさい！　俺はただ、本物のひんぬーを揉み、いえ、なんでもありません！　仮面がなくて力が出ないよ……！」
　素顔を晒した隊員Ａ、行梨 謡が土下座で謝り出した。
　
【投降】行梨 謡　16時37分

「なっしー、何してんだよ！？　つーか素顔晒したら急に弱腰か？　お前らもフルボッコになりたいか？」
　笑顔のまま凄む桐野に、変態たちは後退りを始める。
「おおーっ！　センパイ、カッコいいっ！　いつもの不憫さを感じさせない綺麗なセンパイだ！」
「雨寺ちゃん、俺はいつもカッコイイんだぜ？」
　桐野が雨寺へ振り返って苦笑する。
　すると、雨寺の表情が急に強張る。
「ひぃ、血ぃ～っ！　血は嫌ぁぁぁぁ！！」
　突然、猛ダッシュで逃げ出す雨寺に愕然とする桐野！
　そして、地面に垂れる赤い斑点にようやく気が付く。
「……女子に抱き付かれたからって、鼻血が出るとは。ハッ、俺としたことが……」
＜まぁ、いつものことだけどね！＞
　どんなにニヒルに決めても、吹き出しで自己フォローを忘れない桐野であった。
「って、待って、雨寺ちゃん！　一人じゃ危険だ！」
　雨寺の後を追いかける桐野。その後ろを更に追う変態たち！
「ウホッ、イイ筋肉！」
「って、付いてくんなー！」

　一方、志波 武道は独自に囮作戦を敢行していた。
「こりゃ可愛い弟の身が危ないな……。そしてその友人たちの身も危ないと見た！　よーし、おにーちゃん頑張っちゃうぞー！」
　口調は軽いが、愛弟とその友人のフツウを守るべく、単身で変態たちを探す志波。
　すると、変態たちに追われる桐野の姿を発見する。
「って、ありゃー、きりのんじゃないか！？　やべぇ、ってーことは、既に陸上部に魔の手がー！？」
　可愛い弟は陸上部所属ということで、そちらをマークしようとしたが既に変態たちの歯牙に掛かり始めていたのだ！
　志波は急いで校庭へ飛び出すと、すぐさま周囲を彷徨く変態たちの前へ飛び出した！
「ちょっと待ったー！　これ以上校庭の土を踏ませるわけには行かないな！」
　陸上部の目の前でビシッと決める志波！
「おお、ブドー！　助かったぜ！」
　そこへ通りかかる桐野！
「ここは俺にまかせろー！　おらー！　そこの変態も俺を倒してからここを通れー！」
「おい、それ死亡フラグじゃねーか！　死ぬなよ、ブドー！」
　桐野、救援に感謝しつつ雨寺を追いかける！
「誰だ貴様！？　そこをどけ！！」
「おいおーい、俺のことを知らないなんていやーんな感じ！」
　くねっと体をくねらせた次の瞬間、上半身をバッと脱ぎだした！
　右肩の包帯とギプスが痛々しい！
「新歓祭で見せたこの上半身、見覚えあるだろうー？」
「ま、まさか、貴様は！　志波 武道！？」
「本当に分かっちゃった！？」
　予想外のリアクションに目を丸くする志波。
「まー、俺的には、羞恥心で足を止める程度の覚悟ならやめれって言いたかったんだがっ。あ、俺は弟のために既に羞恥心など捨てているぜ！」
　堂々と半裸で宣言する志波に、変態たちに困惑の色が見え始める。
「……貴様の方が今、俺たちよりか変態だぞ……？」
「ひっどーい！　俺、水泳部だから部活中はいつも海パン１丁でほぼ裸なんですけどー？　今も海パン履いてるしー、テヘ☆　あ、見て見て、この腹筋？　こいつをどう思う？」
「すごく立派です……！　じゃなくて！　真面目にやらんかい！！」
　軽いノリの志波に対して、遂に変態側からダメ出しが入る始末。
「あーもー、分かってないなぁ！？」
　ニヤリ、と志波が口角を吊り上げると、素早く変態たちの懐へ飛び込み、左手で手刀連発！
　すると、変態どもの腰が立たなくなり、一斉にへたり込んでしまった！
「俺、真面目だよ？　今までの流れは、油断させるために決まってるじゃないかー？」
　志波のろっこん『スイ・マー』は、手刀で突いた場所へ局部麻酔を掛ける能力だ。
　志波は軽いノリで大人数の変態たちを油断させ、一瞬の隙を突いて全員に麻酔を掛けて足止めに成功したのだ！
「貴様……！　ここは死亡フラグで脱落するのがお約束のはず！　空気読めよ！」
　ジタバタする変態の仮面を無情にも剥ぎ取り、志波が二カッと勝利の笑みを湛えながら言い放った。
「覚えておけ、おにーちゃんは大事な家族を守るためなら、死亡フラグだろーが何だろうがへし折るぜー？」
　兄の愛情が、お約束をブチ破ったのだ！
　なんというフラグブレイカー！
「さてと、君たちの名前と学年・クラスを全員聞こうか？　『弟関係マル秘メモ』の要注意人物に追加させてもらうからな！？」
　そしてこのブラコンぶりである。
「そういや、変態捕縛の情報、ねこったーに上げておくか。……って、既に情報飛び交ってるなー！」
　志波は情報を全て変態から聞き出した上でねこったーへ報告すると、手近の生徒に風紀委員へ通報してもらうように頼み込む。
　なぜ自分が行かないか？
　それは志波の目先に、変態に襲われている高梨 彩葉がいたからだ。