ミエコ、再び｜リアクション

ミエコ、再び

「乙女のピンチなのだ！　こうしちゃおれないのだ。にゃにゃにゃがおー！」
　後木真央が進化したろっこん【にゃにゃにゃがおー！】で召喚したのは、むっちりふくよかなハチワレフェイスの三毛猫、『がおー』。
　いつもなら頼もしいそのお姿も、今日はミエコとの圧倒的な体格差で、どこか所在無く見える。
「行けい、がおー！　おネコさま同士、会話でミエコちゃんの足を止めるのだっ」
「……ふにゃ～……」
　がおーは真央の命令に従って、ミエコの方へ歩き出す。
　しかしろっこんが進化したお陰で、がおーの気が進まないのが真央には、ひしひしと伝わってきた。
　通常サイズの猫が、干渉出来る相手じゃないのだ。
「しっかりするのだ、がおー！　相手はまだ１歳にも満たない、お子様なのだ！　大人の余裕見せるのだ」
　叱咤激励され、がおーは渋々ミエコの前に立ち止まり、何事か話し始めた。

「ブ、ブニャ？」

「ミェ？」

「グルニャー」

「…………（シラッ）」

「………………（汗）」

　次の瞬間！
「フシャーッ！！」
　がおーは鼻にシワを寄せて、ミエコの鼻先にかぶりついていた。
　驚いたミエコが、凛を開放する。
　がおーは空中で器用に身をくねらせ、反転する。
　そして主人の真央の下へと、一目散に逃げ出した。
　その必死な形相ときたら。
「がおー！？　後は真央ちゃんが、どうにかするのだ？」
「フニャー！」
　ミエコは猛然とこちらへやって来る。どうやら、交渉が決裂したらしい。
「わかったのだ、がおー！　よくやったなのだ、写真撮ったし真央ちゃんも吶喊なのだ～！」
　大事な機材を素早く隠すと、真央は両手を広げてミエコを迎え撃った。
　両者は激しくぶつかった。

　ここからスローモーション

　――ドゴォッ……！！

「かはっ！？」

　圧倒的な質量、それに付随する柔らかで暖かな触感……。
　背景に宝石のようなキラキラを敷き詰め、後ろに吹っ飛びながらも、真央は恍惚とした表情を浮かべていた。

　これが、巨大お猫様――！
　顎外れるかと思ったけど、我が人生に悔いなし、なのだ……。

　ここまでスローモーション

　ハデに土煙を上げながら、真央は地面を滑る。
　しかし、がおーにも負けぬ軽い身のこなしで、どうにかダメージを最小限にとどめた。
「真央ちゃん！」
　凛の悲鳴の聞こえた方に、真央は砂塗れになりながら、ピースサインを送った。
「巨大お猫様の魅力をしゃぶりつくすまで、真央ちゃんは死ねぬ……死ねぬのだ～」

「ミエコちゃん！　それ以上、おいたは駄目！！」
　真央を背中に庇いながら、凛はミエコを見据えると、右耳に触れた。
　凛の進化したろっこん、【加虐的虚偽声楽】。
　凛が耳にした事のある、様々な『音』を再生し、更に衝撃波を放つ能力だ。
　可憐な少女の口から出たとは信じられない程の、爆発音に加えて、衝撃波がミエコを襲う。

「！！？」

　髭を震わせる衝撃波に、ミエコは目を見張る。
「ちょっとは落ち着きなさいっ！」