ミエコ、再び｜リアクション

ミエコ、再び

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「わー、あの巨大猫、もしかしなくても……あの時のミエコちゃん……！？
　しかも都センパイ、ボロボロだしっ！！」
　目の前の惨事に、高校生の雨寺凛は悲鳴を上げた。
　そう、目の前。
　八十八旗信彦が醸し出す安心感と、先輩のピンチに咄嗟に駆け寄った凛は、ミエコに大接近していた。
　軽音楽部の部長も勤める、凛の声はとてもよく通る。
「ミエコちゃん、また大きくなっちゃったんだ。お兄さんには、皆が注意したはずなんだけどな……。
　大人しく遊べるなら、もふもふしたいけど……」
　そこまで言って、凛は自分の足元に落ちた巨大な影に気付いた。
　逆光の中、巨大な瞳孔が凛を見つめてカッと開く。
「……っ！？」
　えーっと、と愛想笑いしながら凛は後ずさる。
　もう一度、快楽に身を委ねんと、目を光らせながらミエコに近づいていく黒兎都とは、実に対照的だ。
「ククク、まだだ、まだ足りんぞ……」
「ミヤコちゃん！？　気を確かに」
「そうですよ、都センパイ、しっかり……！？　あー駄目だ、完全に目がイッちゃってるよぉ……。
　ま、待ってね、ミエコちゃん……私は、おもちゃじゃないからね？」
　凛はずりずり靴を這わせて移動し、ある程度距離を取った所で、背中を向けて逃げ出した。
　信彦と綾花が、それぞれのアプローチでミエコの気を引こうとしたものの、猫が逃げる獲物を見逃すわけがない。まさに猫まっしぐら。
「わーっ、今回もこっち来たー！？　私はおもちゃじゃないってばー！　きゃー！？」
　凛は逃げた、そりゃもう必死に逃げた……のだが、悲しいかな人間の走る速度は、ネコ科のそれとは比較にならない。
「きゃ――っ！？」
　脚をもつれさせて転んだ凛は、むぎゅうと巨大な肉球で押さえつけられた。
「むぎゅう……5ヶ月もたつと結構変わるもんだねぇ、前より力強くなってる……。
　柔らかいけど、このままだとぺちゃんこになっちゃう……！」
　ミエコに好きにされながら、凛は突如思い出す。

（そういや、あの時は……。
　ろっこんで、残念なお兄……はわわ、今のナシ。飼い主さんの声真似をしてて……）

　フラッシュバックする光景、かと思いきや本当にミエコの顔が、生暖かい鼻息がかかるくらい近づいてきて。
「ひゃううっ……！　やっぱり、あひぃっ……舐めてく、うひょっ！
　ちょ、くすぐった、ひいぃっ……、誰か助けて……ふひゃああぁ！」
　しょりしょりとミエコの舌が、凛の首筋から頬を、執拗に舐めまわす。
　もちろん、今回は残念な兄貴の声ではなく、鈴を転がすような生来の凛の声である。
　ブラボー・ミエコ！　やったね！！
　私としても、先回の心残りを解消し、やり遂げたという想いで一杯である。

「はぁ、はぁ、やっと止まった……？　笑い過ぎて腹筋が痛いよぉ……」
　ヨダレでベタベタになった頬や首筋に、張り付いた髪を払いながら、涙目で見上げる。
　その直後、ミエコは何と肩口に噛み付いてきた。
「って、今度は何！？　やっ、甘噛みもやめて！？　痛いって！」
　緊張が走る。綾辻綾花は慌ててポシェットを、まさぐった。
　確か猫の気を引く、アレが入っていたはずだ。
「ミエコ！　ミエコ～、いいものあげますよ～。いい子だから、こっち向いて、ね？」
　焦れば焦るほど、手元はおぼつかない。綾花の足元に、筆記具が散らばった。
　凛を咥えたまま、綾花や信彦の揺らすバラの花を眼で追っている。