ミエコ、再び｜リアクション

ミエコ、再び

　遅れてやって来た少女達も、ミエコに唖然としていた。
　飼い猫の『くろ』と『しろ』を連れ、長い髪を器用に編みこんだ小学生は、夢月姫。
「おっきいねこさん発見ー。本物？　ふわふわもふもふできるかなー？」
　年の割りに、しっかりものの姫だが、やはりまだまだ天真爛漫な女の子だ。
　くろとしろを、ぎゅっと抱きしめながら
「えっと、くろとしろもお友達になりたい？」
　問い掛ければ、彼と彼女は背中の毛を逆立てて、ちょっと引け腰だった。
　無理もない、あれはとんでもない猛獣なのだ。

　プラチナブロンドの大和撫子、中学生のソフィ・Ｃ・リードホルムは言う。
「巨大な猫……戻す方法はあるみたいですが、この体格差では……」
　ソフィは猛獣と化した、三毛猫を観察する。
　手をこまねいているうちにもミエコは暴れまわり、横薙ぎにした都を、ころころ転がして遊んでいる。
「まずい！　行くよ、レディ」
「はいっ！」
　信彦が綾花と共に躍り出た。

「真っ赤なバラが良く似あう、素敵な三毛のレディ！　これが欲しくないかい？」
　取り出したバラを、信彦は猫じゃらしよろしく、リズミカルに振る。
　普通の猫じゃらしよりも大振りなそれは、大きなミエコの瞳にも映ったようで。

　さあ、トレアドール
　構えはいいか

「ミエコちゃん……こっちだよ！」
　ミエコは都を放置プレイすると、闘牛士よろしく、気取って構える信彦のバラに襲い掛かる。
　ひらりひらりと躱されて尚、信彦のろっこん【イケメンの特権】のリラックス効果で、ミエコの動きは直線的だった。
「ぐいぐいきてますね」
　綾花の賛辞に、信彦は笑顔で応えた。
　信彦の巧みな動きに誘われて、ミエコはバラに向かって走って来ては、すんでの所で避けられた。
　勢い余って、もんどりうって倒れても、疑う事を知らないミエコは、起き上がっては突っ込んでくる。
　うまくいっていることに、信彦は胸を撫で下ろした。
　クレジットカードを見せるのが発動条件だったために、ヒトにしか効果を発揮できなかった進化前の【Ｍｏｎｅｙ　Ｉｎ　Ｔｈｅ　Ｂａｎｋ】だったら、こうはいかなかったかもしれない。
「今なら、クマ……もとい、吉田熊吉先生にも効きそうだね」

　それでも信彦は、徐々に追い詰められる。
　こちらは死と隣り合わせの危険な賭けをしているが、あちらはタフな上、あくまでも遊んでいるにすぎない。
「やれやれ、罪なレディだ」
　猛獣の俊敏な動きと、圧倒的な大きさを前に、躱す信彦は必死だった。
　けれども期待を篭めて（？）見守る、レディ達の前で無様は晒せぬと、気を張った。
　何だか、妙に疲れる。

　それもそのはず、女の子達の前でカッコ良く見えるように頑張ったお陰で、ろっこんが発動条件を満たしてしまい、時間が経過するごとに信彦はゴリゴリ気力と体力を削られているのだから。
　そして危機一髪の連発なのに、皆に「やんややんや」で、安心して見物されていたのだった。
「くっ……レディ達は、頼れる俺の姿に安心しきっている！　これが、男冥利に尽きるってやつか！？」

　援護射撃を行うべく射程内に入った綾花も、低く身構えた。
　煮干をチラつかせてはみるが、ミエコの鼻息が荒い。
「興奮してますね……」
　元々、溺愛されて食べ物には不自由のない、飼い猫。
「食べ物では、力不足なのでしょうか？」

「うぅむ……」
　緊迫した様子に、ソフィは逡巡する。
「運動神経には自信がある方ですが、じゃれてるだけでも、致命傷になる可能性があります。
　幸い人柱……もとい、挑戦者は結構な数がいるみたいですし、もう少し観察しましょうか」
　表情を引き締め、眼鏡のフレームを持ち上げたソフィだが、反対のお手手はわきわきしている。
「犬派だけど、猫に興味がないわけではありません」
　ツンデレ、ご馳走様です！