朝顔の咲くころ｜リアクション

朝顔の咲くころ

◇狙いを定めて

　星ヶ丘寮近くの住宅街。
　ランニングをする八神修の一歩先を、茶色い毛並みの子犬がリードする。
「カーキー、今日は機嫌がいいみたいだね？」
　柴犬のカーキーは修のペースメーカー係も兼ねている。
　体力づくりにとランニングをはじめて、もう三ヶ月が経過した。
　こなすのも日増しに楽になり、このくらいの距離なら朝飯前に感じる。
　今日はこのあと学校で部活の朝練がある。
　いったん家に戻って着替え、お抱えの運転手に送迎車を出すよう頼んだ。
　助手席のシートベルトを締めようとした時、足にあたたかい何かがじゃれついてきた。
「こら、カーキー！　一緒に行きたいのか？」
　さっき運動したばかりなのに、カーキーはまだ遊び足りないらしい。
「仕方ないな……じっとしてろよ？」
　テコでも動かなさそうな愛犬に笑いかけ、修は後部座席に乗り移った。

　学校についた修は裏手の森へとやってきていた。
　右手には部室にあった備品一式のカゴをさげ、左の脇にはヒヨコのしらもちを抱きかかえている。
　修が部長をつとめる射撃部は、この場所を練習場として使っている。
　エアライフルなどの模擬銃を中心に、ルールを守りながら射撃を楽しむ部活だ。
　できたばかりの部で備品はまだ揃いきってないが、
　大会への出場など、少しずつ成果も出はじめている。

　立ち撃ちの姿勢になり、深呼吸をして息を整える。
「カーキー、しらもち。少し音がするけど我慢してくれよ」
　スコープを覗き、お手製の的にレーザーライフルの照準をあわせる。
　引き金を引く寸前、手元がぐらついた。
　的の横に置かれたノートパソコンのスピーカーから射撃音が流れる。
　スコアは７。わずかに狙いが外れたらしい。
（……集中力が足りないな）
　一言も声に出さず、再度照準をあわせる。
　レーザーライフルは１ミリでもずれるとスコアの落ちる競技だ。
　１０発打ち終えた段階で、やっとパソコン画面に「９」の数字が出た。

　打ち終えた途端、どっと汗がふき出してきた。
　射撃を終えてから気づいたことだが、修のそばでは興奮したカーキーが吠えていた。
　周りの音がほとんど聞こえていなかったらしい。
「少し涼みたいな……図書室へ行こうか」
　このまま屋外にいる限り、ふきだす汗はいくら拭いてもやみそうにない。
「本を返して、新しいのを借りよう」
　最近お気に入りの科学雑誌の次の号がそろそろ入っているはずだ。
　自習をすませて、時間をつくろう。
　今日もやることが山ほどあるのだから。