朝顔の咲くころ｜リアクション

朝顔の咲くころ

◇朝一番はやいのは

　日の出前、旧市街地の一角。
　橘勇はそっと起き上がり、毛布をたたんだ。
　時計を見る。時刻はまもなく朝の３時半になろうとしていた。
「……そろそろ営業所に向かっておくか」
　勇が請け負っているバイトは朝の新聞配達だ。
「夏休み中とはいえ、ぱったり辞めると生活リズムが狂いそうだな」
　バイトづくしの生活のおかげで、すっかり早起きが習慣づいていた。

　営業所についた勇は入り口で軽く一礼をし、先に来ていたスタッフに声をかける。
「おはようございます」
「おお、おはよう。勇君は毎朝早いね」
　仕分けをしていた営業所のスタッフが勇に気づき、あいさつを返す。
「旧市街地域、頼めるかい」
「旧市街ですね、了解しました」
　新聞の入った鞄を受けとり、営業所を出て配達に向かう。
　配達地域の旧市街は、新聞の購読者も比較的多い。
　出勤前に新聞を読もうと待っている人もいるだろう。
「はやめに配りはじめた方がよさそうだな……体力づくりもかねて走るか」
　重たい鞄を腰で支え、勇は走りだした。

　だいぶ急いだつもりだったが、軒先に出てすでに待っている人がいた。
　郵便受けの向こう側で体操をしている中年の男性に声をかける。
「おはようございます！」
「ああ、おはよう！　今朝もご苦労さま」
　愛想よくあいさつをすると、顔を覚えてもらえているらしく、すぐに返事が返ってきた。
　新聞を手で渡し、次の配達先へと向かった。

　このバイトをはじめた当初は、何の因果か警察に呼び止められることもあった。
　けれど早起きをして頑張った結果、最近は職質ではなく普通にあいさつとして声をかけられる。

　蕎麦屋「すすきの」の厨房からは、香ばしいそばの香りが漂ってくる。
　朝の仕込みをしているところだろうか。
　その香りが勇の胃袋を刺激し、まだしっかりと朝食をとっていないことを思い出させる。
　あと一区画まわればノルマ達成、営業所に戻れるだろう。
「ああ、そうだ……今日のスーパーの特売情報も、聞いておかないとな」
　腕時計の針は、もうすぐ４時５０分をさそうとしていた。

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