朝顔の咲くころ｜リアクション

朝顔の咲くころ

◇夏模様
　朝、桜花寮。
　カーテン越しにさす朝日に、観葉植物の葉が明るく照らされる。
「んー、今日もいい天気ですねっ」
　植物に水をやりながら、奈倉藍は気持ちよさそうにのびをした。
　いつものようにのんびり朝ごはんをとっていたが、カレンダーを見て考えこむ。
　そういえば今日は何か予定があったような。
「はっ！　そう言えば今日はニャンダムの新しいプラモデルの発売日！　あやうく忘れるところでした！」
　ニャンダムプラモ、略してニャンプラ。
　藍の最近はまっている、人気のプラモだ。
　今回、藍は予約を入れていないので、当日行って買うしかない。
　寝子島駅近くの古くからある模型屋なら、もしかしたら残っているかもしれないが……。
「早く行かなきゃ売り切れちゃいますよー！」
　藍は急いで残りのごはんをかきこんだ。

　着替えて外に出た藍は、麦わら帽をかぶり、空色のワンピースを身にまとっていた。
　装いはすっかり夏モード、涼しげなレース模様が夏空の下で揺れている。
　旧市街の商店街を歩いていると、顔なじみの人たちが声をかけてきた。
「あら、藍ちゃんおはよう！」
「おはようございます！」
　元気よくあいさつを返す。
　商店街の一部のお店は間もなく開店時刻を迎えるようだ。
　準備をしていた洋服屋のおばさんが、藍に向かって手まねきをした。
「ねえ、藍ちゃん聞いたかしら？　お向かいの源ちゃん、また階段で腰を打ったんですって」
「えーっ、またですか！？　大丈夫だといいんですけど……」
　商店街の人には、こうしたニュースは時に新聞の一面記事よりも大きなスクープになる。
　ついつい世間話に花を咲かせてしまい、藍は本来の目的を忘れて話し込んでしまった。

「あ、あそこの猫さん可愛いですねー」
　やっと商店街の端まで来たはいいのだが、
　今度は三毛猫が顔を洗っているのを見つけた。
　猫を追いかけて神社の石段を上がり、こちらでもまた脱線。
「毛並みのいい猫さんですねー。今日はどちらへお出かけですかー？」
　話しかけられてもどこ吹く風、寝子島の猫たちは今日もマイペースだ。

　そのまましばらく毛づくろいを眺めていると、急にあたりが賑わいはじめた。
　気づけば、八百屋のおじさんが手を打ち鳴らして開店をしらせている。
「さあ、らっしゃいらっしゃい！　いい野菜そろってるよー！」
　新鮮でお買い得な野菜をもとめて、ベテラン主婦たちが店内へと入っていく。
　時間が気になり、藍は携帯をとりだして時刻を確認した。
「わっ、もうこんな時間！？」
　記憶が確かなら、模型屋が開くのはもう間もなくだ。
　三毛猫に別れを告げ、あわてて藍は駆け出した。
　走っても落とさないように麦わら帽を押さえ、ワンピースの裾を引っかけないようつまむ。
　いつのまにか車の往来がふえ、街全体が目覚めたような印象を受けた。
「わーん！　売り切れないでくださいねー……！」
　足音が雑踏にまぎれていく。
　人ごみをかきわけ駅へと向かう藍の後ろ姿を、
　道路沿いのフェンスに咲いた朝顔が見守っていた。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：詩帆ミチル
ファンレターはマスターページから！

お待たせしました。「朝顔の咲くころ」のリアクションをお届けします。

密度の高いアクションをいただきました。
いままでに見た光景を思い返しては想像をふくらませ、
キャラクター様の日常をどう描くか考えながら執筆していました。
少しでもイメージに近づけていれば、幸いです。

このたびはご参加いただき、ありがとうございました！

↑ページトップに戻る