Summer night pleasur｜リアクション

Summer night pleasur

●淑女の溜息●

「……はああぁぁぁ」
　盛大な溜息と同時に、ジンロックのグラスの中でカランと氷が音を立てる。
「……近頃は洋風の式が流行なのはわかるんだけどねぇ。なんでブーケトスがバットで打つ形になるんかねぇ？　いくら新郎の趣味が野球だからって……」
　カウンターに頬杖をついた宇佐見満月は、そこまで呟いてマスターの穏やかな眼差しが自分に向けられている事に気が付いて肩を竦めた。
　見れば大抵の者が『おめでたい席』帰りだと分かる服装だ。
「ああ、昼間にやっていたここでの結婚式と、披露宴の愚痴さね。長くなるけど、マスター、ちぃと聞いてはくれないかい？」
　満月の声に、マスターはその前に寄った。
　どうしてあんな溜息をついていたかというと、原因は彼女が参列してきた結婚式にあるようで。
　大方の予測通り、披露宴と二次会が終わってひと息つきに来たのだという。
「結婚式での出し物に問題があれば、まずはプランナーが止めるでしょうね。最近はブーケトスが未婚の女性へのハラスメントに当たるのではと配慮して、誰でも参加出来るよう柔らかいボールを使ってのボールトスをして、ボールを取った方に景品を……という話も耳にした事がありますよ」
「そういうモンなのかねぇ」
　マスターの話に、満月はちょっと意外そうだ。
「別に式も披露宴も、流行があるからどうこうは言えないし、独身の身で愚痴っても『していない奴のひがみ』と言われてしまうかもしれないんだけどさぁ……招待客をもてなせないのは、どうかと思うんだよねぇ？」
　そこまでボヤいて、満月はマスターの顔を見上げて苦笑した。
「いやあ、ここのホテルを悪く言う訳ではないんさ。スタッフの方には飲み物や食べ物など、微に入り細に入り、気を配って頂いたんさね。ただねぇ……披露宴を二回するのはどうかと思うんさ。家が取り仕切る昔とは違うから、新郎新婦がホストとしてもてなす……って式が今まで多かったけど今日のは……厳しかったねぇ。いくら呼びたい人を全て呼ぼうっても、二回やるほど呼ぶのは……
　職場の親友は二回とも出ていて『もう食べられない』って嘆いていたさね。ああ、あたしもそのクチさ、ここまでコース料理さぁ」
「お客様もそのご親友も、お友達思いなのですね」
「え？」
　再び顔を上げた満月に、マスターは微笑み掛ける。
「律儀に両方の披露宴にご出席されたのですから。私など、きっと片方は断ってしまいますよ」
「……そうか、そういう手もあったね」
　満月は数度瞬きして、グラスを手に軽く笑った。
「まあ、あたしゃ来た人と話をする時間をいっぱい取りたいねぇ。極限までイベントを減らして……さ」
「素敵な披露宴になりそうですね」
「やだねぇ、まだ当分先だよ」
　からりとした明るい笑い声が、カウンターの一角に花を咲かせた。