あなたと合体したい（物理）｜リアクション

あなたと合体したい（物理）

●お姉ちゃんたちと女の子の場合

　事件はどこだ！　と探していると、寝子島総合病院にたどり着きました。
　するとちょうど大きなかごを持った宮祀智瑜さんも病院の自動ドアをくぐりました。
　自転車で来たのか額には玉の汗が浮かんでいて、けれどそんなことちっとも気にしていない足取りでロビーを横切っていきます。
　どうやらお見舞いのためにいらっしゃったようですね。
　せっかくなので彼女と一緒に事件現場に向かおうと思います。
　どうやらロビーで見知った看護師さんが居たらしく、智瑜さんはぺこんとお辞儀をしてからエレベーターに向かいます。
　今度はその途中の待合に腰掛ける八神修君を見つけたのでここでは二・三言言葉を交わしてから、その場を去りました。
　そうして向かったのは小児科病棟の新島ちよちゃんのお部屋。
　以前は重篤患者病棟の個室だったちよちゃんですが、今では小児病棟に移って（個室であるのは変わらないようなのですが）体力づくりに勤しんでいます。
　そうこう言っている間にお部屋に着いたようですね。
　控えめに戸を叩いてから智瑜さんは満開の笑顔で部屋に入って行きました。
「ちよちゃん、クマさん、おはよう」
　そうすると部屋の奥で衣擦れの音がしました。
「ちゆちゃん、おはよう！」
　ちよちゃんとクマさんが振り返った音です。
　ちよちゃんの元気そうな顔を見てホッとしたのか、智瑜さんはそっと彼女の頭をなでました。
　すると気持ちよさそうにちよちゃんは首をすくめ、今度はクマがなでてなでてと頭を差し出しました。
「はい、クマさんもですよね」
　智瑜さんはくすくす笑ってからクマさんの頭もなでて、それからかごから花を出して花瓶に活けます。
　今日のお花は貴婦人が踊っているような花弁の黄色いオンシジュームと小花が可憐なカスミ草です。
「かわいい……！　ありがとう大事にするね！」
　これだけの花束は、けっして安くはないでしょう。けれどこの笑顔を見ると智瑜さんはまた今度も買ってこようと思うのです。
　次にかごの中から果物を――宮祀青果店の自慢の商品なのでしょうね――取り出して、サイドテーブルの上に置きました。
「今の時期はナシとモモが美味しいんですよ」
　果物が机に並べられると、また別のものがかごの中から出てきます。
　今度はクマの形をした水晶のついたヘアゴム。以前購入した水晶を智瑜さんがでヘアゴムに加工したものです。
「……ちよちゃんはどんな髪型が好きですか？」
　智瑜さんが櫛でちよちゃんの肩の上で切りそろえられた髪を梳きながら尋ねます。
『ぽにーてーる』
　悩むちよちゃんを置いて、先に答えたクマさん。
「クマの耳みたいにまあるくお団子にして欲しいの。片方の耳にイヤリングをしてるみたいに！」
　それから髪の結び方も教えて欲しいの。
「はい、任せて下さい。あ、それと、寝る時は腕につけるといいですよ」
「……ありがと」
　ちよちゃんは幸せすぎて怖いと言うように、そっと目を伏せました。
　そうして髪を結っていると、トントントンと扉を叩く音がします。
　毒島林檎さんです。
「……おはよう。ちよちゃん、クマ。それからああ君も来ていたのか」
「おはようございます、林檎さん」
　この暑い中、今日も真っ赤なマフラーを巻いて、彼女はやって来ました。
　おっとすっかり忘れていましたが、事件はどこで起こっているのでしょうか？
　私が疑問に思ったのが伝わったのか、
「わわ、そんなに引っ張ったらダメだよクマ」
「……そ、そんなところ触らないでよ！」
　お気に入りたちがちょっぴり主張をしてくれました。
　どうやらここは同時多発くっつき事件現場のようです。
　ちよちゃんのクマさんと、林檎さんの真っ赤なマフラーさんがご主人にくっついているのです。
　しかもマフラーさんが林檎さんのお胸をなでるので、林檎さんは心の声まで漏れてしまっています。
　なんだか楽しい事件になりそうですね。