◆とある病院にて
病院の個室。
真っ白なベッドにやせ細った女の子が横たわっていた。
その細腕には何本もの針が刺し込まれ、周りには無機質な機械がいくつもいくつも並んでいる。
「ねぇクマ?」
少女は傍らにある、自分と同じくらいのサイズをしたクマのぬいぐるみに懸命に話しかける。
すると、クマのぬいぐるみはゆっくりと立ち上がった。
電池は入っていない。少女が動かしたわけでもない。
ぬいぐるみは自分の意志で動いたのだ。
少女は薄く頬に笑みを浮かべ、自由になる首を動かし、クマのぬいぐるみを見つめる。
クマが動き出したことに対して、特に驚いた様子はない。
ぬいぐるみは首をかしげてみせた。まるで『なぁに?』と答えるかのように。
「ちよ、クマがいるから全然さびしくないんだよ」
クマは静かに少女の手に触れ、こくりと頭部を縦に振る。
彼女の痛々しい腕をさすりながら彼は思う。
口があればちよちゃんとおはなしができるのに。
いたいのいたいのとんでいけーってしてあげられるのに。
けれど彼はぬいぐるみであるがゆえに、話すことはできない。
言葉にできない気持ちを感じ取った少女は、慰めるように言う。
「クマは、ちよの、おともだちだよ」
少女の唇の動きがより緩慢なものに変わる。
「ずっと、いっしょだよ」
笑みを貼り付けたまま、少女は静かにまぶたを閉じた。
クマの眼を模したボタンがさみしげに光った。
やくそく。まもる。ぼく、ちよちゃんといっしょ。ずっと、いっしょ。
「先生! 先生! 三○六号室の新島 ちよちゃんが心肺停止しています」
早朝、ナースステーションでけたたましいアラームが鳴り響く。
そのアラームは患者の心拍数などが異常値に達したときに知らせるためのものだ。
医者が急いで、三○六号室へ向かい、扉を勢いよく開ける。
「え……?」
そこには誰もいなかった。
窓が開いているのに気がついたナースが最悪の状況を想定し、窓の下を見下ろす。
「いない……」
少女の姿も、跡もない。いつもの風景がそこにはあった。
「院内を探しましょう」
医者たちは消えた少女を探すために部屋を去っていく。
そのとき、誰もいないと思われた窓の下には、あのクマのぬいぐるみがいた。
眠りについた少女を背負い、病院の三階から飛び降りたのだ。
しかしこれといった損傷もない。
クマが地面を蹴る。
すると重力を感じさせないほど高く、軽く飛び上がった。
そして、またたく間に病院の外へと消えていった。
◆今朝のニュースにて
「今朝、寝子島病院に入院していた新島 ちよちゃん九歳が行方不明になりました――」
◆始業前、寝子高にて
「お、俺見たんだよ。クマのぬいぐるみが歩いてるのを!」
一人の寝子高生が顔を青くして、仲間に話しかける。
しかし誰もが鼻で笑い、彼の言葉を信じようとはしない。
「本当だって!」
「嘘つくなよー」
一蹴。
仲間内の一人がニヤニヤと茶化すように言った。
「どこで見たんだ?」
「さっき学食の方にふらふらーって」
「はいはい」
「こいつ馬鹿言ってるぞ」
周りにも聞こえるような大声で、目撃談を笑い飛ばされた。
始業を知らせるベルが鳴り響く。
彼らは雑談をやめ、授業の準備をした。
午前八時四十分。
少女を連れたクマは、寝子高学食に迷い込んでいた。
◆挨拶
今回はアクションの判定が厳しくなるかと思われます。
ご了承お願い致します。
そしていつも以上にガイドをしっかりと読んでください。
さて、さっそく説明へ。
◆概要(必読)
寝子高でクマのぬいぐるみが出没したという目撃証言があったように、
クマのぬいぐるみが少女を抱いて、学食にいるそうです。
この日の午前中は、学食周辺の教室の使用予定がないので、人を呼ばない限り人が集まってくることはないでしょう。
◆アクションきっかけ
・噂を聞いて興味本位で見に行くもよし。
・偶然居合わせたもよし。
・迷い込んだもよし。
◆情報まとめ
※PL情報になります。
【登場人物】
新島 ちよ
九歳。入院中の内向的な女の子。
長い闘病生活で友達はクマのぬいぐるみだけ。
寝子高で発見される時点では、意識を失っています。
クマのぬいぐるみ
ちよちゃんの友達。自分の意志で動くことができます。
大きさはちよちゃんの身長と同じくらいで、120センチくらい。
ちよちゃんと同程度(小学校低学年)の知能はありますが、
話すことはできません。
身体能力はガイド参照。
クマは基本的には温厚ですが、ちよちゃんを傷つける、あるいは怖がらせている。『 ク マ が 』そう判断すると攻撃的になるので注意。
◆目的
クマのぬいぐるみが女の子を連れて寝子高に迷い込みました。
どうにかしてあげてください。
お昼になると人が集まってきます。
それまでに解決するか、移動するなりしておかないと、大騒ぎになるでしょう。
大きく分けて方法は二つと想定しています。
・クマを強引に退治する。追い出す。
・クマがどうしてここに来たのか推理し、助ける。