あなたと合体したい（物理）｜リアクション

あなたと合体したい（物理）

●ギターとラブとガールの場合

　悲鳴に呼び寄せられて辿り着いたのは、さきほども訪ねた桜花寮。しかも今度ももちろん女子棟です。
「よう相棒、起きたか」
　その女子棟の一室（ハート柄のピンクのカーテンが実に可愛らしい！）で、鼻にかかった色っぽい男性の声が聞こえてきました。
　起きたか、ということは。
　これはもしや、寝込みを襲うというやつでしょうか！
　ドキドキしながらその部屋を覗いてみますと――「ギターが張り付いて喋ってる！」乙女・雨寺凛さんがしっかりと状況を説明してくれました。
　どうやら寝込みを襲ったのは真っ赤なギターさんのようです。
　真っ赤なギターは凛さんの胸のあたりに（水玉柄のパジャマの上からではありますが）ぴったりとくっついていて、まだ眠りから冷め切っていない凛さんは、目をまんまるに見開いて固まっています。
「いつも世話になってんな」
　そのボディと音色にぴったりな情熱的な声で日頃の感謝をギターさんは述べます。
　けれどその後は「今日は……なんだ、その、」と、少しばかり言葉に詰まってしまいました。
「え、えっと……」
　少しずつ夢から現に戻ってきた凛さんはおそるおそるながらくっついているギターに触れてみました。
　するとギターはブルリと弦を震わせて凛さんにこう告げます。
「驚かせて悪かった。でもお前の温もりが感じたくてよ……ちょっとこうさせて貰うぜ……」
　薄いパジャマ生地を挟んで伝わってくるギターのひんやりとした感触。
　そのギターに自分の体温が徐々に移っていくのを自覚すると、なんだか凛さんはむずがゆくなってしまいます。
　けれども凛さんの胸の中に（淋しがりなのかな、私のギター……）という思いが広がって、離れて欲しいとは言えません。
「情けねぇけどよ、俺は弾いてくれるお前が居ねぇと何もできねぇんだよ……」
　そう思っているところへ、オクターブを下げて空気を多分に含んだ声でギターさんが話しかけるので、
（やだ、クールな声でそんなこと言われたらちょっとキュンとしちゃう……！）
　凛さんの頬は一瞬で赤く熟れました。
「でも……」ギターさんはほんのわずかに身動ぎをして「今日だけは、俺に主導権握らしてくれねぇか？」。
「へっ？　わわ、ちょっと！」
　器用にパジャマの裾をめくり上げ、服の中へと潜り込んでいきます。
　凛さんは凛さんで抵抗しますが、どうしたってギターさんの動きを止めることはできません。
　ついにギターさんは直接、凛さんの素肌に触れて「これが凛の温もりか……」と恍惚として息を漏らしました。
「……っ」
「俺の体が人のそれなら抱いてやれたんだがな」
　わずかな隙間も許さないというように身体を重ね、素肌を震える音で愛撫します。
　初めての感覚・体験に（何だかドキドキしてきたよ……）凛さんの黒瞳が潤みます。
「ああ、感じるぜ、お前の鼓動（ビート）……弦に響いてくるぜ。
　俺を奏でるお前の指のテクは最高に気持ちいいし、お前の歌は魂を揺さぶってくれる……！
　俺とお前のコンビなら世界中を感動させられるって本気で思ってんだ。
　だからよ、これからも宜しく頼むぜ、相棒」
（そんなに私の事愛してくれてたんだね……）
　凛さんの胸が、彼の弦のように震えたような気がしました。
「うん、こちらこそ、よろしく、ね……」
　パジャマの上から、ギターさんを凛さんは抱きしめます。
　ゴツゴツとした人とはまったく違う感触でしたが、その感触は慣れ親しんだものです。
　慣れ親しんだもののはずなのに、やけにドキドキするのは、それはそこに気持ちがあるからです。
「愛してるぜ、凛」
　彼の全身全霊の愛を受け止めて、凛さんは恥ずかしそうに頷きます。
　今日一日ずっと部屋にいるのは、なんとかなるとしてもルームメイトの子が見たら驚くだろうな。
　そう思いながらもちょっぴりキザなギターさんの愛に、流されてしまう凛さんでした。