暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！｜リアクション

暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！

（今なら、いけそうね）
　かろうじて走り続けることができた桃川圭花は、うまい具合に先回りする事ができた。眼鏡を外すと、彼女はベビーカーに視点を集中する。彼女のろっこん『ガレージランド』の効果でベビーカーの車輪が１つ、キレイに分解された。乾いた音と共にバランスを崩すベビーカー。同時に、近づく影が、３つ。人命救助に適した人がタイミングよく来たことに、彼女は小さく微笑んだ。けれども、彼女が食べたかったクレープは悲惨な姿になっており……ちょっと悲しかったのはここだけの話だ。

「わあぁん、赤ちゃんが泣き止まなぁ～い！」
　胸をべしべし叩かれて痛いふわりが困っていると、向かってくる影が。覚醒したろっこん『スロー・ハンド』で加速した茉莉だ。ふわりは咄嗟に彼女へと赤ちゃんを手渡す。
「よっしゃあ！」
　そして、好機と読み『トンビの飛翔』で飛翔した奈良橋博美が、茉莉と赤ちゃんを保護する。所が、勢い余って前のめりに倒れそうになる。
「危ないっ！」
　バランスを崩しかけた所を、るるかがフォローし、ふわっ、と漂ったお下げに赤ちゃんの目が釘づけになった。
突然の事にきょとんとなる茉莉。我に返ると、博美はくっ、と親指を立てる。るるかも安堵の息を漏らし、赤ちゃんにお下げを引っ張られて苦笑していた。少し離れた場所では圭花が小さく微笑んでいる。４人の女の子達に見守られ、赤ちゃんはきょとん、としているようだった。

しかし、ベビーカーとショッピングカートは未だ動いていた。ふわりも未だ乗っている。このままでは工事現場突入だ！

「何やら騒がしいな」
「あれだよ！」
　先回りして工事現場付近にいた東中居陽二が、通りかかった新井瞬平に声をかける。指差した先、遠くにぼんやり見える赤ちゃんの姿。そして、向かってくるベビーカー（＋ショッピングカートonふわり）。
「赤ちゃんは助かったようじゃが、まだあと一人残っているようじゃな」
　また路地から一人。猫ヶ崎獅子子が額の汗を拭って前を見据えた。何をするべきか、３人にはわかっている。陽二は買った物の入った袋やら携帯やらで三角形の結界を張る。まずはこれで進路を変えるのだ。
「曲がれえええええっ！」
「合わせる！」
　続いて獅子子が念じつつ虚空にパンチを打ち出し、空気の塊を放出させる。これが功を奏し、ベビーカー（以下略）が進路を変える。それに合わせて駆け出す瞬平。彼は体を張ってショッピングカートに残ったふわりに手を伸ばし、どうにか下ろした……のだが、ふらふらのふわりが倒れこみ、尻餅をついてしまう。
「ふえぇぇ、目が回りますぅ～」
　健全な青少年としては喜んでいいのか慌てるべきか。押しつぶされながら瞬平は平静を装った。その傍らで、陽二が呟く。
「グッバイ、俺の１２５０円……」
　どうやら、購入したマグカップが割れてしまったらしい。それに獅子子がご愁傷様、というような顔をしていた。

（どうにか……助かったみたい、だな）
　走りながら情報を提供していた志波拓郎は、その場に腰を下ろし、てきぱきとねこったーにコメントを書き込む。
『赤ちゃんも無事保護された。暴走ベビーカーその他も止まった模様』
　その傍をひらひらと舞う蝶の姿に、彼は少し笑みをこぼす。人目につかないところでろっこん『ハイヤードジャンパー』を使っていたのだが、少し疲れてしまったようだ。
「おつかれさまですっ」
　気がつくと、近くに屋敷野梢が冷たいスポーツドリンクを差し出してくれた。彼女もまたねこったーで情報を流してくれていたのは知っていたが、走っている間、彼女の姿を見ていない。けれども、彼女のコメントを振り返ると上空からみたような雰囲気があった。
「そういえば、……高台にでも、いたのか？」
「？　まぁ、そんなところですよ」
　自分のろっこんを秘密にしている梢はくすっ、と笑うと、自分もまたお茶を飲み始める。
（まぁ、赤ちゃんが……無事なら）
　拓郎はボロボロになった靴に触れながら苦笑する。後で靴を買いに行こう、そう思いながら。