暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！｜リアクション

暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！

「ベビーカーは僅かにスピードを落としながらも徐々に工事現場へ向かっている！　追跡集団との距離はなかなか縮まらない！　その上神出鬼没と不破ふわりが一緒にショッピングカートに居た！？　何を言っているのか分からないだろうが、俺も訳が分からない……」
　思わず、といった様子で実況してしまう刀。どこぞのサイボーグもかくやと言わんばかりの加速を見せるのは彼のろっこん『加速』の成せる技である。先程まで頭痛に悩まされる悠（はるか）を抱え上げていたのだが、疲れを全く見せないのは鍛錬の賜物だろう。
　刀の後ろにつけていた達磨が、ベビーカーの異変に気づく。このまま進むと工事現場へ突入しそうな雰囲気だ。
（これはちょっと、拙いっしょ？）
　そんな彼の傍らにいたのは、先ほど合流した千子誾千代の姿が。彼女は少し息を切らしているようだったが、まだ走れそうだった。
「千子っち！　ちょっち手を貸して？」
「へっ？　まぁ、誾ちゃんでよければ♪」
　達磨は「サンキュー」と言いながら誾千代の手を握る。途端に発動する鎌鼬がベビーカーの進路をわずかに変えた。好みの女の子と手を繋いでいる間発動する達磨のろっこん『恋はタイフーン』がここで役に立った。
（間に合った！）
　そして、ベビーカーの前へと現れたのは小山内海。サイドテールを揺らし、息を切らしつつも買ったばかりのペンを握り締める。海のろっこん『アクセラレイトライン』は空中へ書いた線の軌道に沿って物体を加速させる。それを利用し、止められないか、と動いたのだ。
　鮮やかな青が、逆方向の加速へと導く。赤ちゃんの泣き声とふわりの悲鳴、没の声が響く中、さらに速度が落ちたようだ。
「こっちだ！」
　ぶつかりそうになった彼女を、本宮虎治が体を張って受け止める。そして、追いかけ続ける大山田団十郎に「頼む」と目だけで知らせた。同時に転げ落ちそうになる没を、団十郎が受け止める。
「大丈夫か？」
「オイラより……赤ちゃんを！」
　没が指差した先では、ふわりがどうにかベビーカーのベルトを赤ちゃんから外し、あやしている。が、力強く暴れるため、妙に危ない。しかも何気なくボリュームのある胸をべしべし叩いている。
（腹がすいているのか？）
　その時、バイクから降りた者がいる。スタッフに乗せてもらっていた最上るるかである。彼女はスタッフに礼を述べると走り去ったベビーカーを見た。今の速度ならば、自分の足でも追いつける。
『あっちだよ』
「怪我人はまかせておけ。だから牛瀬の赤ちゃんを」
「わかったわっ」
　るるかは踵を返すと、必死に追いかけ始めた。

　そんな騒動が近づいてきている中、反応する者がいた。休憩していた跡野茉莉である。彼女はねこったーで情報を見ていたので気にはしていた。
（えっ？）
　ふと、覚える奇妙な感覚。それは、赤ちゃんの泣き声やら人の声やらが近づく度に、共鳴しているような……？　そう思い、狼狽えている間にも、両手の甲に浮かび上がる数字。水色に輝くそれは左手に１、右手に２と書いてあるようだった。
（もっと、はっきりしないかな……）
　そう思った瞬間、カチリ、と音を立てて周囲の動きが変化する。茉莉以外の物が全てとてもゆっくりと動いているように見える。そして、前に通り過ぎるベビーカー（＋ショッピングカート）。赤毛の少女が赤ちゃんを抱えていて……。
「行ける、よ」
　茉莉は確信した。同時に、スプリントを開始する。