暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！｜リアクション

暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！

起：休日に風を切るベビーカー？！
　その日は、休日な上、よい天気であったのもあり、アウトレットモールは大勢の人で賑わっていた。部活の備品を買いに来る者、友達同士で買い物に来る者……等、寝子高の生徒達もちらほら見受けられる。
　勿論、寝子高の生物教師、牛瀬巧もまた末の息子・つかさを連れてのんびりと買い物を楽しんでいた。すれ違う生徒たちの姿や元気な息子の姿にどことなく笑顔になる巧。
（ええなぁ、こういう日ってのは。心が弾むわぁ）
　しかし、そんな空気を吹き飛ばすような出来事が、この数分後におこるのである。

　ふぅ、とため息をつきながら、お下げの少女がベンチに座る。どこかのんびりとした空気を纏った彼女は、何気なくねこったーを見ていた。買い物に来ていた跡野茉莉は、少し疲れたので日当たりの良い場所で休憩をしていた。
（いい天気だね……）
　真っ青な空に、ふんわり雲が浮かんでいる。時計を見るとアウトレットモールのタイムセールまであと少し、といった具合だった。
　その時、茉莉はトラブルに巻き込まれる事や『力』に目覚める事など知る由もなかった。

「一緒に買い物へいきませんか？人気のセールがあるそうですの」
　学校でそう、アネモネ・アドニスに誘われていた逆巻天野と夢宮瑠奈、森蓮は、丁度アウトレットモールで買い物をしている最中だった。今、いるのはカジュアルな洋服を揃えているブティック。今、天野が試着をしている所で、アネモネ達は彼が着替えるのを待っている所だった。
　そこへ買い物に来ていた千子誾千代がやって来る。彼女の姿をみて瑠奈が手を振ると、アネモネと蓮も笑顔で応じた。
「なんかいいトコで会ったね♪　ん？　誰が試着してるの？」
「実は……」
　瑠奈が事情を説明していると、天野から声が掛かる。蓮が試着室のカーテンを開けると、春らしい色合いの洋服に身を包んだ天野の姿があった。普段着は和服である為、着慣れない感触にぎこちなさそうにしている。
　いつの間にか１人増えている事に気づいた天野が誾千代に挨拶していると、アネモネが、開かれた試着室の前で微笑む。
「なかなか似合いますね」
アネモネは彼に頼まれて洋服を見立てたのだが、自分で思った以上に似合っている、と思ったのだ。
「素敵ですね。ご自分では、どう思いますか？」
「うーん、ジーンズって履き慣れないや」
　蓮もうんうん、と頷きつつ問いかけ、それに天野は照れ混じりに答える。ジーンズ特有のごわっとした感触はちょっと足にくすぐったい。
　そう思いながらもVネックシャツと上着と一緒にレジへ持っていくと、店の外が微妙にざわついているのに気づいた。
「何やら騒がしいようですが……」
　蓮の声に、他のメンバーも頷く。気になって店の外に出てみると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。よく見ると、ベビーカーがしゃー、と軽快な音を立てて走り去っていった。それを追いかけているのは見た事のあるような男性だった。
「あれって……寝子高の先生だったかも」
　瑠奈の言葉に、一同が固まる。しかし、赤ちゃんが泣いているとなれば放ってはおけない。しかも、寝子高の先生のお子さんだ。一同は顔を見合わせると店を飛び出していった。
（それにしても、なんで泣いているのかな？）
　皆で走り出しながらも、誾千代はふと、そんな事を考えた。

このページにイラストを設定する