暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！｜リアクション

暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！

転：暴走ベビーカーよ、止まれ！！

「私に続けっ！！」
　メガホンを手に人格がころっ、と変わってしまった杏子を筆頭に、クレープが悲惨な姿になるのを青ざめた顔で見る圭香などのメンバーがベビーカーを追っている。因みに何故か大きいクマのぬいぐるみが一緒なのは杏子のろっこん『玩具の兵隊』の所為だったりする。
　体が多少丈夫になったもれいび達であっても、自動車並みの速度で動くベビーカーを追いかけるのは大変な事だったのだろう、アネモネを初め何人かはリタイヤしてしまう者もいた。しかし、それでも諦めず走る者達は、必死に追いかけていた。

　――ベビーカー（＋α）にて。
「ナァンンでぇー、ブレーキ付いてないんですかぁ～～！？」
　ドップラー効果で震える不破ふわりの悲鳴。彼女の膝の上では目を回した神出鬼没のがようやく目を覚ました。
「な、なに？！」
　我に返って気づく。なんでか自分もまたショッピングカートに乗っかっている事を。ショックで気を失っていたとは言え、予想していなかった。
（七音に協力してもらって、転送できたらよかったんだけど）
　ふわりはどうにか体重移動で操作してくれている。赤ちゃんはまだ泣いているが、先ほどよりは落ち着いているのか、泣き声が僅かに小さくなった気がした。少し勇気づけられた没は、笑う。赤ちゃんに、ふわりに笑ってもらいたい。だから、自分から笑う。
「ベルト、外せないかな？」
「え？　ええ？！　うーん……やってみますぅ～」
　没とふわりはとりあえず赤ちゃんを安心させたいと思い、ベビーカーのベルトを外せないか、交代で試してみる事にした。

　途中で足を挫いてしまった巧に手を貸す円と、その間も送られてくる情報を見るひびきと彩葉、落ちてたカバンを拾い、持ち主の許可を得て母子手帳をみせてもらう聖たちの姿があった。その他、追いつけなくなった者達も体を休めている。
『牛瀬先生が足を痛めたようだ。数名で手当とかしながら、情報を聞いてみる』
　ひびきがねこったーにコメントすると、幾人ものメンバーから返事があった。それにわずかながら安堵の息を吐いた。
「せやなぁ、つかさは高い高いが好きやな。あと、このカバンの中のガラガラも。……あとはだっこが大好きやね」
「だっこが好き、と……。なるほどなるほど」
　聞かれるがままに、末息子の好きな事を話す巧。その傍らで彩葉がそれをねこったーにコメントしていく。もし、離れていたならばひびきは自分のろっこん『ツーカー・トーカー』を使うつもりだったが、手間が省けた、と内心で思った。
「特におかしな点はありませんね……」
「うん、荷物の損傷も、足りない物もないね」
「どうにか保護してからが、本番でしょう」
　母子手帳を調べていた聖、鞄の中身を巧に頼まれてチェックしていた円と悠（ゆう）が情報を整理していると、蓮と天野がやってきた。彼らは避難誘導を手伝ったり、お店の人に騒動を説明したり、と地道に活動していた。けが人が少ないのはそのおかげでもある。
「一応、冷やしておきますね」
　蓮が巧の足に冷却材を乗せる。よく見ると、ベビーカーに跳ね飛ばされた暁や、引きずられた侑もこのベンチに案内されていた。天野曰く、アウトレットモールのスタッフが救護用にスペースをとってくれたらしい。
　呼びかけ等を行っていた為、喉がわずかに掠れている天野は周りの人のろっこんが原因で頭痛に苛まれる悠（はるか）にお茶を飲ませつつ、自分も水分補給しておく。
（そういえば、これ……没のだよな）
　彼の手には、スケートボードが握られている。どうやら外れたらしく、転がっていた所を確保されたのだ。天野は後から没に渡そう、と真面目に考えた。