暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！｜リアクション

暴走ベビーカー？！　ちょっとまって赤ちゃん！！

「あぁん、困りましたぁ～」
　そんな風に唇を尖らせた不破ふわりは、やや大きいショッピングカートを排水口の蓋に引っ掛けていた。キャスターの車輪が文字通りがっちりと嵌り込んでおり、押しても引いてもビクともしない。
　騒ぎを聞きつけた者が早く逃げろ、と言うものの身動きが取れないのだ。そうこうしているうちにベビーカーがふわりに迫る！！
　ねこったーで見ていたであろう、近くのショップ店員が助けに行こうとするも、それよりも早く加速をつけたベビーカーがショッピングカートに激突した……のだが、そこで笑いの神が降りたらしい。どこをどうすればそうなるのか、ベビーカーと共にスピンしたかと思うと、ショッピングカートが妙な具合にベビーカーの後方にがっちりはまりこんでいた……。
「きゃああああああああ！？　は、早すぎますぅ～！！」
　振動でナイスバディが揺れに揺れ、シャツのボタンが２つ飛んだのだが、それはまた別の話である。

（たまには、こんな贅沢もいいわよね）
　と、小さく笑う桃川圭花。彼女の手には、プレミアムショコラに三種類のベリーに、生クリーム……ともかく、いろいろなトッピングが食欲をそそる、クレープが握られていた。休日のみ販売、しかも個数限定のプレミアムクレープに甘い香りに心が弾む。早速近くのベンチに座って食べようか……と考えた矢先、悲劇は訪れた。
「えっ！？」
　僅かな振動と、遅れるように吹く風。そして通り過ぎる人々。突然の事に眼鏡がズレ落ちそうになるのを押さえたものの、手に持っていたクレープはない。
「……私のスペシャルクレープが……」
　圭花はバンッ、とクレープ屋のカウンターを叩くと、ベビーカーを追いかけ始めた。休日の楽しみを奪われたとあってはたまったモノではない。
（私のアウトレットモール・プレミアムが！）

　神出鬼没は必死にスケートボードで追いかけていた。どうにか、あの赤ちゃんを助けたい一心で。
　没は、幼い頃難聴の老人に育てられた。無口で物静かな人だったが、没はその人が大好きだった。そんな大切な人から教わった言葉が、彼の胸で息づいている。

『手紙と一緒に笑顔も届けるのが郵便屋だよ』

　没は走る。赤ちゃんに『皆の想い』を届けるために。泣かないで、と……。
　スケートボードで障害物を華麗に避け、必死に追いかける様は他の面々にも影響を及ぼす。少しだけではあるが、距離が縮まったように思えた。
その途中で人が跳ね飛ばされたり、ショッピングカートが突っ込んだり、紙袋やクレープが引っかかったりとトラブルがあったがそれは気にしない。没の乗ったスケートボードは確実にベビーカーへと近づいていく。
「ありゃ？　神出鬼君……」
　そんな没の姿を見かけたのは七音侑。瑠奈からの電話やねこったーからの情報、周りの寝子高生の様子でトラブルを知った侑は、マップをみて先回りし、軌道修正ができないかと走っていたのだ。
「あっ、七音！！　あのベビーカーに乗りたいの！」
　没が声をかけると、すぐさま接近し、しっかり捕まるように促す。が、ここでちょっとしたアクシデント。スケートボードがショッピングカートに引っかかっているではないかっ！
「！！」「うにゃああっ？！」
　宙に舞う没、どうにかショッピングカートを掴む侑。ガシャン、と鈍い音がしたかと思えば、ぴたり、と止まるベビーカー（＋その他）。
「「えっ？！」」
　みれば赤ちゃんがきょとん、とした顔で彼女たちを見ている。追って来ている者達が好機とばかりに駆け寄るが……？！
「えっ？！」

　――ふええええええんっ！！
　――きゃああああああああっ？！