おいでませ！　おひとりさま｜リアクション

おいでませ！　おひとりさま

　恵御納夏朝はてくてくと歩いていた。
「暑い。太陽は僕を殺す気なの？」
　じりじりと照りつける太陽を軽く睨み、夏朝は溜息。
　夏休みの宿題はほぼ終わったのだ、ほぼ。
　問題は、残りの自由研究。
　自由に研究すればいいのだから一番簡単そうなのだが、なかなかどうして、進まない。
　夏朝といえば猫好きで、猫グッズの収集にも余念がないのだから、そこを研究してもいいのだが……。
「とてもじゃないけど、紙が足りないの」
　自由研究で発表するとしたら、せいぜいＡ４サイズのコピー用紙に３枚程度だ。
　夏朝のお猫様に対する愛情とこれまで集めた猫グッズについて語らせたら、Ａ４のコピー紙が１００枚あっても足りないだろう。
　つまり、研究対象に選ぶとしたら、適度に興味のあるもので、お猫様は関係ないものでなくてはならないのだ。
　てくてくてくてく。
　炎天下を歩く夏朝の額には、汗とともに怒りマーク。
　左手に装着済みの猫方のパペット君をじっと見つめる。
　いい解決策は、ないものか。
「ん？」
　パペット君のつぶらな瞳に映った看板に、夏朝は振り返る。
　そこには、カラオケショップが。
「息抜きに、少し遊ぼうかなぁ……」
　このまま炎天下を歩き続けたら、夏朝でなくとも間違いなくぶっ倒れる。
　夏朝はカラオケショップにおずおずと入ってみる。
（入ったけど……そういえば、ひとりカラオケって殆どやった事ないなぁ）
　カウンターで手続きは済ませたものの、なんとなく、戸惑う。
　寝子島に来る前は両親とカラオケによく来ていたのだが、夏朝一人でとなると、もしかしたら初めてかもしれない。
「操作方法は一人でも数人でも変わらないはずなの」
　でも。
「……どこ押すんだったかな」
　端末のどこかを間違って押してしまったのか、見慣れない画面が。
「ＤＯＧ、１１０？　何だっけそれ」
　恐らくアイドルグループだろうということはわかるのだが。
　知っている曲を探そうにも、なかなか上手く探せない。
（とりあえず、喉が渇いたの。冷たいお茶をお願いしようかな）
　室内電話での注文は戸惑う事無くあっさりと出来た。
「お猫様関連の曲なら、なんとかなりそうなの」
　恐らく最初の画面であろう選曲ペ－ジまでもどり、なんとか検索をかけることに成功した夏朝。
　ずらっと出てくるお猫様関連の曲は、夏朝が一度は耳にしたものばかり。
　でも。
「ふわふわ子猫を見かけたら、おおきい子猫の夢を見て……」
　サビの部分はわかるものの、その他の場所が怪しい。
　音程を聞きながら、ほんの少し遅れ気味に歌う夏朝。
　そんな中、先ほど頼んだ冷たいお茶を持って店員さんが室内へ！
「うにゃっ？！」
　おもいっきり、マイクを通して夏朝の驚きが室内に響き渡る。
　店員が申し訳なさそうに頭を下げて去っていく。
（ご、ごめんよ店員さん……っ）
　心の中で必死に店員に詫びつつ、きっちり歌を覚えておく為に帰宅したら寝子島ニャイチューンで流行の曲を把握しておこうと、心に誓う夏朝だった。

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