サマー！部活動のお時間です！～運動部編～｜リアクション

サマー！部活動のお時間です！～運動部編～

サッカー部１　＜デザートを賭けた戦い＞

　寝子島のサッカー部は強豪と呼ばれるうちに入る。
　１年からでも活躍の場が与えられたり、個々の方針に任せたトレーニングを実施していたり、年ごとによるムラは多少あるものの、毎年試合はいいところまで勝ち上がっている。

　今日はその、寝子島高校サッカー部の強さの秘訣に迫ってみる。

「徒歩で２時間半！？」
　神奈川県の内陸部、山間にある合宿所への最寄り駅に着いたサッカー部員一同は、普段見る海沿いのものとは違った厳しい太陽の照りつけを手で遮りながら、目の前に広がる道を見上げた。合宿所までの道のりに最も驚いているのは、今回が初めての参戦である１年生たちだ。
「迎えの車とか、当然ないんすよね」
「ない！」
　工藤耀が尋ねると、部長は歯切れよく言いきった。
「ここから合宿所まで競走だ！　上位に入ったもの順に晩飯の量が増える！　おかわりし放題権、おかず倍増、デザート追加、豪華特典がつくから頑張るように！」
　おおーっ。サッカー部以外の人のいない駅前に歓声が沸く。
「マネージャーの緑野は、合宿所の人が持ってきてくれたこの電動自転車を使うように！　ではスタート！」

「これが噂に聞くサッカー部スパルタ合宿か！」
　勾配のきつい山道を駆け始めた志田朝陽、さっそく流れ始める汗をぬぐう。
「こりゃあ心身共に鍛えられちゃうな！」
　いきなりの猛トレーニングに、誰も弱音を吐く者はいない。むしろ上位者特典に目を光らせ、我先にと先頭争いが激化している。意外にも１年生勢が食い下がっていた。
「彼女にうつつ抜かしてるへっぽこドリーマーにトップは譲らないぜ」
　鎌八まもるが汐崎キミをあおる。
「俺は恋も部活も本気なンだよ！　カマヤツ、お前キーパーだシあんまスタミナ使わないだろ。後ろで休んでてイイヨ！」
「ナンセンス、今夜のデザートはオレのもの」
「待っちやがレ！」

「さっすがに飛ばし過ぎだな先頭は」
　脳筋ぞろいの中では唯一の冷静な頭脳派、言い換えればツッコミ側の立ち位置の六月一日宮檸檬は、中団あたりで様子をうかがっている。
　それにしてもこのトレーニング、得るものが多いな。檸檬はこの原始的なメニューに感心している。スタミナや精神力の底上げはもちろん、ペース配分や環境問わず本領を発揮するための柔軟性など、サッカープレイヤーに求められる技術をナチュラルに向上させることができそうだ。
「これが我が寝子高サッカー部強さの秘密ってわけか」

　寝子島高校サッカー部の強さの秘訣その１。与えられた条件で最大限の効果を発揮できるメニューを組める、オリジナリティ溢れる発想力。

「チャラ彦、今日はやけに静かだね」
　檸檬に張り付くようにして走る八十八旗信彦に声をかける。
「こんな山奥じゃ俺の活躍を見せたいレディがいないからねー。力も入らないよね」
「なるほど、チャラ彦らしいな。でも俺を日差し除けにするのやめてくれない」
「あ、ばれた？」
「ちょっとペース早めさせてもらうぜ」
（こんなところで無駄に体力使うわけにいかんし……ふふふ）
　檸檬に先を譲る信彦。ある狙いがあったのだが、今はまだ胸の内にしまっておくのだった。

「私だけ電動自転車……ちょっと気が引けちゃうなあ」
　メガホンで声援を送りながら、マネージャーの緑野毬藻仔は少し申し訳なく思う。とはいえカゴには応急セットをたんまりこしらえ、肩からは用具をぎゅうぎゅうに詰めたボストンバックを掛けている。そんな状態で山道を走る部員達の先頭から最後尾までを行ったり来たり、声かけや水分補給でサポートしている。

　結局この山道トレーニングは、去年も同じ条件を走っていて心身共にも充実している上級生がトップ５を独占したが、１年生勢も負けてはいなかった。デザートへの執着が誰よりも強かったまもるを筆頭に、耀、キミ、朝陽が団子でゴール、檸檬も続いた。信彦だけは終始マイペースでスタミナの消費を抑えた。

　サッカー部合宿はまだ一合目を過ぎたばかりである。