「うーん、大分カオスになってきたけど……寝子高のイベントはこうじゃないとなっ！」
　真っ赤になったプールを掻き分けて、北斗は混戦に突っ込んでいく。
　そんな様子を窺いつつ、修はビート板を片手にそろそろとスイカゾーンに突入する。
　ビート板……いや、違う。よく見てみれば、それは折り畳まれた“こいのぼり”だ。
　彼はこいのぼりを広げると、その口にスイカをどんどん放り投げ始めた。
「……あっ！　こっそりに何してやがる！　させるかぁ！！」
　そこにプールの破壊王、亨が飛んできた。
「出たな、七峯……。返り討ちにしてやる」
　修は麺棒片手に振り回す……がしかし、修の運動神経では命中は期待出来そうにない。
「そんなもんに当たるかよっ。……おらぁ！！」
「ぐっ！？」
　修の肩に手をかけて、跳躍した亨。スイカ目がけて肘鉄を振り下ろす。
　ところが……！
「な、なにぃ！？」
「フッ……無駄だ」
　スイカを詰め込まれ、膨れたこいのぼりは打撃を完全に吸収。
「スイカを食らって成長したこいつに打撃は通用しない。いくら殴ろうが、鯉が水中に潜るだけだ」
　この見事な気転に、オーディエンスからも拍手が起こる。
「ちっ。小賢しいこと考えやがって、めんどくさい野郎だぜ……！」
「めんどくさいのはそっちだろうが！」

「……おっ、七峯の注意が逸れた。よし、今のうちだ！」
　朝陽は素早くスイカを確保すると放り投げて、リフティングの要領で頭に乗せる。
　このまま泳いで一気にゴール……と思ったら、目の前を真央がばしゃばしゃと泳いで遮った。
　彼女は小脇にビート板を抱え、首には防水のデジカメを提げている。
　水中に潜っては、ぱしゃりぱしゃり。水の中にたゆたう褌を写真におさめていく……。
「こんなイベントまたとないのだ。みんなの褌の勇姿ちゃんと記録に残しておくのだ」
「うわっ！　俺のは撮るなよっ！」
　照れて朝陽が下がったところ、ずるっと何かを踏み付けた。
「うぉわっ！？　何すんだ、志田！　褌の裾踏んでるっての！」
　褌がほどけそうになり、声を上げたのは利平だ。半分にしたとは言え、彼の長尺褌はまだまだ長い。
「うおっ。誰かと思えば握……。って、おまえの褌が無駄に長いからだろうが。もっとちょん切ってこいよっ」
「バカ。褌は海の男の魂だ。これ以上は切れるかよ。いいか、踏むなよ。絶対に踏むなよ……」
　と厳重に注意を促したその時、こっちに来た真央が褌を踏ん付けた。
「どわっ！？」
　するすると褌がほどけると同時に、ぱしゃりとシャッターを切る音が水中に響く。
「のわああああああああーーーーーーーっ！！！？」
　水中から飛び出した真央は、目をぱちぱちさせて、撮ってしまったモノを見た。
「！？　！？　！？」
「うわあああっ！！　消せ！　消せ消せ！！」
「……何してんだよ、おまえら。って、こんなことしてる場合じゃねぇや」
　朝陽は急いでプールサイドに泳ぐ。
　今ならゴールはがら空き。見える、見えるぞ、勝利への道筋が。
「！？」
「おーほっほっ！　先ほどは不甲斐ない姿を見せましたけど、スイカ割ではそうはいきませんわよ！」
　プールサイドでセクシーアピールをするひとつの影。
　オーディエンスの眼差しを一身に集める、この自己顕示欲の塊乙女は……そう、財前華蓮だ！！
「ざ、財前先輩！？　まだプールに飛び込んでなかったのかよ！？」
「そのほうが目立つでしょう？　……むむっ！？」
　華蓮は朝陽の頭に乗ったスイカに目を光らせた。
「この私を差し置いて、ゴールしようなんて片腹痛いですわ！」
　ダダダダダッと後ろに下がると、華蓮は頭を前に突き出して、朝陽目がけてジャンプ！
　見事な跳躍に、うおおおおおおおおーーーっ！！　と歓声が起こった。
「粉砕っ！！」
「どわあああああああっ！！？」
　真っ赤な血のように、朝陽の持っていたスイカから汁が散った。
　そして、水面に仲良くプカリと浮かぶ華蓮と朝陽。頭突きのダメージは双方甚大だったようである……。

「……まったく賑やかなものだな……」
　冷めた目で混沌を見つめる月詠は、ゆっくり息を吸い込んで潜水。
　そのまま音も無く、気配も無く、スイカゾーンに辿り着いてスイカを回収。
　ちょっとだけ頭を出して、辺りの様子を窺う。
　――誰にも気づかれていないようだ……。
　それもそのはず、散々亨と瓢が暴れたおかげで、プールの水は真っ赤っか。
　こんなところで潜られたら、誰もなんにも見えねーよっ！　ってなもんである。
　彼女は、サメか忍者のようにまた気配を断って、スーッとあっさりプールサイドに戻ってきた。
「これでゴールでいいんだよな？」
　うおおおおおおおおおーーーっ！！　と沸き起こる歓声に、プールにいた選手達はハッとした。
　褌スイカ割りバトルロワイヤルを制したのは、なんと漁父の利もいいところの、旅鴉月詠！！
「いつの間に……！　こうしちゃいられねぇ！！」
　亨は傍にあったスイカを抱えると、ろっこん『縮身』で縮み、即解除。
「！！？」
　その勢いで、ドーンと上がった水柱とともに、プールサイドに華麗に着地を決め、堂々の２位でゴール！！
「フィニッシュ！　褌！　気、持、ち、イイィィィィィ！！！！」
　これにもまたオーディエンスから拍手と喝采が巻き起こった。
　そして、我先にとプールサイドに戻ろうと急ぐ中、機先を制したのは着々とことを成していった修。
　悠々とプールから上がった彼は、寝子島の漁師のようにスイカの詰まったこいのぼりを水揚げしてゴール！！！
「フッ。計画通り。当然の結果だ……しかし、夏休みとは言えこの惨状」
　真っ赤になったプールに、ううむ……と修は唸った。
　月詠もじぃっと亨に視線を向ける。
「……七峯。後始末はちゃんとしろよ」
「わ、わーってるって。俺の勝利に水を差すんじゃねぇよ。……はぁ。掃除、大変そうだな……」
　それから続々と選手が帰還する。
　４位で戻ってきたのは、亨の執拗な攻撃に身動きとれずにいたものの、ガッチリスイカを守りきった竜司。
　５位は混沌から離れ、撮影に勤しんでいた真央。ビート板の間にスイカを挟んで、じゃぶじゃぶと生還。
　６位、北斗。７位、武道。８位、利平。９位、といき。10位、コブラ。11位、ののこ。
　未だ食いだめ中の瓢は脱落。絶賛気絶中の骸、朝陽、華蓮もリタイア……である。

　ピピィーーーーーーー！！

「試合終了！　そこまで！！」
　浅井先生のホイッスルとともに、褌スイカ割りバトルロワイヤルの幕が下りた。
　そして、いよいよ総合順位の発表である。